日本で父が緊急搬送。海外在住の娘が直面した介護と手続きの壁

海外で暮らしていると、日本にいる親の暮らしは、どこか現実感を失っていきます。
電話口で聞く「元気だよ」という声や、たまの一時帰国で見る変わらない日常に、
「まだ大丈夫」「うちはもう少し先」と、無意識に線を引いてしまうからです。
アメリカで30年以上暮らしてきたAさんも、そうでした。
日本に住む高齢の両親は自宅で暮らし、母は認知症があるものの、父が介護をしながら生活は成り立っている――そう思っていたそうです。
ところがある日、日本の救急隊から一本の電話が入ります。
「お父様がご自宅で倒れ、救急搬送されました」
海外にいるときに起きる、突然の出来事。
このときAさんが直面したのは、医療や介護だけでなく、
海外在住者だからこそ避けて通れない、日本社会の現実でした。
もし、あなたのもとに同じ電話がかかってきたら。
あなたは、すぐに動けるでしょうか。

Aさんはアメリカで30年以上暮らしています。
日本の親族とは長年疎遠で、日常的な付き合いはありません。
お姉様はすでに他界しており、実質的には一人っ子の状態でした。
日本で暮らすご両親は、お父様96歳、お母様84歳。
お母様は認知症があり、日中はデイサービスを利用。
金銭管理や家事、身の回りのこと、そして介護まで、すべてをお父様が担っていました。
今年の春、Aさんが一時帰国した際には、大きな異変は感じられなかったといいます。
「まだ元気そう」「もう少し大丈夫」
そう思って帰米した直後の出来事でした。
日本の救急隊からの連絡を受け、Aさんはすぐに航空券を手配。
2日後には日本へ到着し、お父様が搬送された病院へ向かいました。
お父様は意識を取り戻していましたが、言葉が出ません。
意思疎通ができず、今後の見通しも立たない状況でした。
そこでAさんが最初に突き当たったのが、日本独特の制度です。
「身元保証人・身元引受人がいなければ、入院は継続できない」
しかし、海外生活が長いAさんは、
日本の親族とは疎遠で頼れる人がいませんでした。
問題はそれだけではありませんでした。
・身元保証人、身元引受人がいない
・親の銀行口座の印鑑が分からない
・マイナンバーカードの暗証番号が不明
・戸籍関係の書類がすぐに取得できない
ひとつ解決しようとすると、次の壁が現れます。
日本の制度は専門家でないと解決できないことの連続でした。
Aさんの一時帰国期間は、わずか10日間。
時間だけが、容赦なく過ぎていきます。
「これは一人では無理だ」
Aさんはそう判断し、専門家に頼る決断をします。
身元保証、行政手続き、介護や住まいの相談――
それぞれの分野で役割を分けてチームを組み、同時に動かす体制を整えました。
通常であれば2〜3か月かかる手続きも、
専門家のチームで動くことで、10日間という限られた時間の中で道筋をつけられました。
一時帰国中、Aさんが強く感じたのが「言葉のズレ」でした。
日本語の読み書きは問題ない。
それでも、行政や病院、銀行の窓口で話が止まる。
原因は、長年海外で暮らす中で身についた“英語的な思考”でした。
結論を先に伝える英語と、結論をぼかす日本語。
その違いが、思わぬコミュニケーションギャップを生んでいたのです。
専門家が間に入ることで、状況は驚くほどスムーズに動き始めました。

入院から約1か月後、お父様は他界。
Aさんは再び日本へ戻り、今度は葬儀や行政手続き、相続対応に追われます。
お母様は公的施設から病院へ移り、生活の立て直しが必要な状態でした。
今後もAさんはアメリカで暮らすため、
お母様には日本で安心して暮らせる環境を整える必要があります。
幸い、お父様は生前に公正証書で遺言を残していました。
この備えがあったことで、国をまたぐ相続手続きは大きな混乱なく進められました。
この事例が教えてくれるのは、
「何が起きるか」よりも「誰に頼れるか」が重要だということです。
海外にいると、日本の親の問題は突然、現実として迫ってきます。
そのとき、自分ひとりで何とかしようとすると、心も時間も削られてしまいます。
日本に親族や知人がいても、高齢で保証人を断られるケースが増えており
「身内がいる=安心」とは言えない現実があります。
備えとは、書類や制度を知ることだけではありません。
いざというときに「頼れる先」を、知っておくこと。
それが、海外在住者にとって何よりの安心につながるのかもしれません。
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※本記事は、海外在住者の老後・介護をサポートする一般社団法人「サロンドハース」代表・よこばたけあやみ氏が、日刊サンで連載中の『日本の介護最新情報』に基づき、再構成したものです。(執筆:海外暮らしINFO/監修:サロンドハース代表 よこばたけあやみ氏 )※記事内の画像はイメージです。





