海外在住者が日本の親を介護するために準備すべきこと

海外在住者にとって、日本にいる親の介護は大きな悩みの一つです。いざというときに慌てないためにも、医療・介護情報の把握や介護保険制度の理解、施設やサービスの事前調査が欠かせません。この記事では、離れて暮らす親の介護に備えて、海外在住者が今からできる具体的な準備について詳しく解説します。
海外から日本の親を介護する際に必要な準備
海外在住であっても、日本にいる親の介護に備えるためには、事前の準備が非常に重要です。急な病気やケガなど、突然の介護が必要になる前に、医療情報の整理や介護保険制度の理解、利用可能なサービスの把握など、できるだけ早めに体制を整えておくことが将来の安心につながります。
親の健康状態・医療情報の把握

海外在住者が親の介護を考える際、最も重要なのは、親の現在の健康状態と医療情報を正確に把握することです。緊急時の迅速な判断が求められる場面で、親の医療情報が不足していると適切な対応ができません。親自身が自分の病状を正確に伝えられない状況も想定し、客観的な医療情報を整理しておくことが重要です。
医療情報のリストアップ
海外在住者にとって、親の医療情報を整理しておくことは非常に重要です。親の健康状態を把握するために、以下のような情報をリストアップしておきましょう。
- かかりつけ医(病院・クリニック名)、診療科目、主治医の名前
- 現在治療中の病気や既往症(発症時期、治療経過、現在の状態)
- 服薬中の薬(薬剤名、用法・用量、服用方法、処方期間)
- アレルギーや注意すべき医療上の事項
- 過去の手術歴、入院歴
医療情報は、緊急時に日本の医療機関や介護事業者と連携する際の重要な資料です。海外から日本の医療機関に問い合わせる場合、時差の関係で連絡が取りにくいことも考慮し、FAXやメールでも情報提供ができるように準備しておくことをおすすめします。
保険・公的書類の整理
親の健康保険証、後期高齢者医療被保険者証、介護保険被保険者証といった公的書類は、医療・介護サービスを受ける際に必要になります。本人が保管場所を忘れてしまうこともあるため、分かりやすい場所に整理しておき、必要に応じてコピーもとっておくと安心です。
- 親の健康保険証(マイナ一体型健康保険証、または資格確認書)
- 後期高齢者医療被保険者証(75歳以上)
- 高齢受給者証(70歳~74歳)
- 介護保険被保険者証
- 生命保険・医療保険等の保険証券
可能な範囲で親の医療費や介護費用の支払い状況、医療費控除の申請状況なども把握しておきましょう。銀行の預金通帳と印鑑、マイナンバーカード(個人番号通知書)など、医療・介護に関する手続きで必要となりそうな書類も一緒に確認することをおすすめします。
医療・保険情報は親本人だけでなく、日本国内にいる兄弟姉妹や親戚、信頼できる知人とも共有しておくことが重要です。海外在住だと緊急時の対応が難しいため、一人ですべての情報を管理するのは望ましくありません。
情報共有の方法としては、クラウドストレージを活用して関係者がアクセスできる共有ファイルを作成したり、定期的に家族で話し合いの場(オンライン)を設けたりする方法が効果的です。特に緊急時の連絡体制を明確にし、誰がどの情報を管理するか役割分担を決めておくことで、スムーズな対応が可能になります。
介護保険の利用方法を確認

日本の介護保険は、40歳以上の日本国民が加入する社会保険制度であり、要介護認定を受けることで様々なサービスを利用できます。必要なときにスムーズに手続きを進められるよう、制度の仕組みや利用方法を事前に理解しておくことが重要です。
とくに海外在住者の場合、直接窓口に足を運ぶことが難しいため、電話やメールでの相談方法を把握し、代理人を通じて必要な手続きができる体制を整えておく必要があります。日本に住む親の介護が必要な場合、介護保険や支援制度の確認・手続きは、以下の順序で進めるのが一般的です。
1.市区町村の窓口・地域包括支援センターに相談
介護保険制度の利用を検討する場合、まずは親の住民票がある市区町村の介護保険課や、地域包括支援センターに相談しましょう。市区町村の介護保険課では介護保険の仕組み、申請方法、利用できるサービスについて詳しい説明を受けられます。多くの自治体では、海外からの電話やメールでの相談が可能です。
地域包括支援センターは、高齢者の生活を総合的にサポートする機関で、介護予防から実際の介護サービスまで幅広い相談に応じています。海外在住者の事情にあわせて、具体的なアドバイスを提供してくれることが多く、メールでの相談を受け付けている場合もあります。
相談の際は、海外在住であることを明確に伝え、一時帰国の頻度や期間、緊急時の対応方法などについても併せて相談することが重要です。どちらに連絡すべきか迷う場合は、まず市区町村の役所に電話を入れれば、適切な窓口を案内してもらえるでしょう。
参考:地域包括支援センターについて(全国の地域包括支援センターの一覧)
2.介護保険の申請手続き
介護保険のサービスを利用するには、市区町村の窓口で要介護認定を受ける必要があります。申請は親本人、または家族などの代理人でも可能です。
- 要介護認定申請書(役所の窓口または市区町村のホームページから入手)
- 介護保険被保険者証(65歳以上)
- 健康保険被保険者証(64歳以下)
- マイナンバーを確認できるもの(マイナンバーカード、個人番号通知書)
- 申請者(代理人)の本人確認書類(マイナンバーカード、運転免許証など)
- 主治医意見書
- 委任状(代理人申請の場合)
- 印鑑
海外在住で帰国が難しい場合は、日本国内の家族や親戚に依頼し、親への付き添いもしくは代理申請をしてもらいましょう。本人以外が申請する場合は、委任状が必要です。依頼できる家族・親戚がいないときは、地域包括支援センターに相談すれば、職員に代行申請してもらえます。
3.要介護の認定
介護保険の申請後、要介護認定審査が行われます。まず市区町村の職員による訪問調査にて、要介護度の基本調査(一次判定)が実施され、基本調査の結果と主治医意見書をもとにした介護認定審査会での審議(二次判定)で、要介護度が決定される仕組みです。
要介護度は、要支援1~2、要介護1~5の7段階で判定され、申請から30日以内に審査結果の通知書が届きます。代理申請を依頼した場合、調査日程や主治医からの情報、審査結果は電話やメールでしっかり共有してもらいましょう。要介護認定は有効期間(通常6か月~1年)があるため、更新手続きのスケジュールを把握しておくことも重要です。
参考:厚生労働省「要介護認定の仕組みと手順」
4.ケアプランの作成
要介護認定を受けた後は、ケアマネジャー(介護支援専門員)がケアプランを作成します。海外在住者の場合、電話やビデオ通話でケアマネジャーとの面談が可能です。親の生活状況、家族の状況、希望するサービス内容を詳しく伝えましょう。
ケアプランには、利用するサービスの種類、頻度、提供事業者(介護事業所・介護施設)などが具体的に記載されます。海外在住者としては、緊急時の連絡体制や、一時帰国時のサービス調整などもケアプランに反映させることが可能です。ケアプランは定期的に見直しが行われるため、海外からでも継続的にケアマネジャーと連携を取り続ける必要があります。
5.介護サービスの利用
作成されたケアプランに基づいて、実際に介護サービスを利用します。訪問型や通所型など、複数のサービスを組み合わせて利用するケースが一般的です。海外在住で日常的な親の見守りが困難な場合、訪問系のサービスを中心に利用するケースが多いでしょう。
多くの場合、海外からでも電話やメールでサービス事業者との契約や調整が可能です。ただし、緊急時の対応や詳細な調整は、日本国内の代理人を通じて行う場合もあります。介護保険の利用手順を把握し、帰国が難しいときに備えて国内の代理人やかかりつけ医を決めておくとスムーズです。
介護保険で受けられるサービスの把握

介護保険制度を通じて受けられるサービスは多岐にわたります。親の身体状況や生活環境に応じて、訪問・通所・施設利用などを組み合わせることで、無理なく在宅介護の継続が可能です。主なサービスの種類と内容も把握しておきましょう。
訪問看護・介護サービス
訪問介護サービスは、ホームヘルパーが自宅を訪問して身体介護や生活援助を提供するサービスです。身体介護には食事介助、入浴介助、排泄介助、移動介助などが含まれ、生活援助は掃除、洗濯、買い物、調理などが該当します。海外在住者にとって、親の日常生活を支えてもらえる重要なサービスの一つです。
訪問看護サービスでは、看護師が自宅を訪問して医療的なケアを提供します。バイタルチェック、服薬管理、医療機器の管理、床ずれの処置などが主な内容です。海外からでも親の健康状態の変化を定期的に確認できる重要なサービスといえます。必要に応じて、訪問入浴や訪問リハビリなどの専門サービスの利用も可能です。
通所型サービス(デイサービス・デイケア)
デイサービス(通所介護)は、日中、施設に通って入浴、食事、レクリエーション活動などを行うサービスです。海外在住者にとって、親の社会的な交流を維持し、孤立を防ぐ重要な役割を果たします。定期的に専門スタッフが親の状態を確認できるため、健康状態の変化を早期に発見できることもメリットです。
デイケア(通所リハビリ)は、主に医療機関や介護老人保健施設で行われ、リハビリテーションに重点を置いています。理学療法、作業療法、言語聴覚療法などの専門的なリハビリの利用が可能です。通所型サービスを利用することで、海外在住者は親の日中の安全確保と社会参加を同時に実現できます。
短期滞在型サービス(ショートステイ)
ショートステイは、1日から数週間の短期間、施設に宿泊して介護サービスを受けるものです。在宅で介護を続けている家族が、冠婚葬祭や出張、体調不良などで一時的に介護が困難な場合や、介護者の休息(レスパイトケア)が必要なときなどに利用されます。
施設では食事、入浴、排泄などの日常生活支援に加え、機能訓練やレクリエーション活動も提供されるのが一般的です。短期入所療養介護では医療的なケアも含まれるため、医療管理が必要な親に適しています。海外在住者の場合、緊急時の一時的な避難場所としても重要な役割を果たすため、事前に利用可能な施設を確認しておきましょう。
参考:厚生労働省「介護保険で利用できるサービス」
福祉用具のレンタル・購入費の助成
介護保険では、車椅子、介護ベッド、歩行器、手すりなどの福祉用具のレンタルや購入費の助成を受けられます。海外在住で身の回りの世話が困難な場合、親の身体機能の変化にあわせて、必要な福祉用具を適切に導入することが重要です。
福祉用具専門相談員が親の状態を評価し、最適な用具を選定・調整してくれます。購入の場合は年間10万円を上限として費用の7割から9割が支給され、レンタルの場合、月額料金の1割から3割が自己負担です。
住宅改修の費用補助
住宅改修制度は、要支援・要介護者が自宅を改修する場合、工事費用の一部が支給される制度です。たとえば、手すりの取り付け、段差の解消、滑り防止のための床材変更、扉の取り替え、便器の取り替えなどに対して費用の助成を受けられます。生涯20万円が上限として費用の7割から9割が支給され、限度額の範囲内であれば複数回申請が可能です。
海外在住者の場合、親の住環境を安全で介護しやすいものに改修することで、在宅での生活継続を支援できます。住宅改修制度を利用するには「住宅改修の理由書」が必要なため、まずはケアマネージャー等に相談し、工事前に市区町村の窓口に申請しましょう。
参考:厚生労働省「介護保険における住宅改修」
地域にある介護施設のリサーチ・見学

海外在住者にとって、親が住む地域の介護施設を事前にリサーチしておくことは非常に重要です。要介護度や生活の自立度に応じて様々な介護施設があり、サービス内容や費用、待機状況も大きく異なります。海外在住で現地見学が難しい場合でも、事前に情報を集めておくことで、いざというときにスムーズに対応できるでしょう。
介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)
特別養護老人ホームは、要介護3以上の認定を受けた高齢者が入所できる公的介護施設です。24時間体制で介護職員が常駐し、食事、入浴、排泄などの日常生活支援から、医療的なケアまで幅広いサービスを提供しています。
全国的に入所待ちが多い傾向がありますが、公的な費用補助があるぶん、費用負担を抑えられるのがメリットです。親の長期的な介護が必要な場合は、検討したい選択肢の一つになるでしょう。海外在住者の場合、定期的な面会が困難なため、施設スタッフとの密な連携が重要になります。
養護老人ホームは、身体的な介護は必要ないものの、環境上や経済的な理由で在宅生活が困難な高齢者が入所する施設です。特別養護老人ホームとは違い、入所条件は要介護度ではなく、市区町村が調査の上、行政措置として入所が決められます。介護の必要がなく自立度が高い高齢者向けの施設です。
参考:厚生労働省「介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)」
介護老人保健施設(老健)
介護老人保健施設は、医療的なケアとリハビリテーションに重点を置いた施設で、在宅復帰を目指す中間的な施設として位置づけられています。海外在住者の場合、親が入院治療後にすぐ自宅に戻るのが不安な場合、リハビリを受けながら段階的に在宅生活に移行する選択肢として検討したい施設です。
施設には医師、看護師、理学療法士、作業療法士などの専門職が配置され、個別のリハビリプログラムが提供されます。一定期間内に在宅復帰を目指すことが目的のため、入所期間は3か月から6か月程度が原則です。
参考:厚生労働省「介護老人保健施設(老健)」
有料老人ホーム
有料老人ホームは民間が運営する施設で、介護付き・住宅型・健康型などタイプが複数あります。サービス内容は施設ごとに異なり、費用も幅広いため事前の比較が重要です。公的介護施設に比べると費用は高額になりますが、サービス内容や居住環境を自由に選択できるのはメリットです。
有料老人ホーム の種類 | 対象者 | 施設の特徴 |
介護付き | 要支援・介護者 | ・要介護度に応じた介護サービスを定額で提供 ・生活支援、身体介護、機能訓練といったサービスの利用可能 |
住宅型 | 要支援・要介護者 | ・外部の介護サービス事業者と契約してサービスを利用 ・食事や家事の生活を支援 |
健康型 | 介護不要の自立した高齢者 (要介護になったら退去) | ・身の回りのことは自分で行う ・居住者向けの有料サービス・施設内設備が充実 |
軽費老人ホーム
軽費老人ホームは、自立度が高い高齢者が利用できる施設のこと。地方自治体や社会福祉法人などが運営しているため、有料老人ホームより低額で入居が可能です。A型・B型・C型(ケアハウス)の3種類があり、C型はさらに一般型と介護型に分かれます。
種類 | 対象年齢 | 食事 サービス | 介護 サービス | 施設の特徴・サービス内容 |
A型 | 60歳以上 | ◯ | ✕(※) | 生活援助(洗濯・掃除等)あり 月額費用が比較的低め(所得による) 初期費用なし |
B型 | 60歳以上 | ✕ (自炊) | ✕(※) | 自立した生活が前提 月額費用が最も安価 初期費用なし |
C型 (一般型) | 60歳以上 | ◯ | ✕(※) | 生活援助(洗濯・掃除等)あり 生活相談・健康管理支援あり 初期費用(保証金・入居一時金)必要 |
C型 (介護型) | 65歳以上 要介護度 1以上 | ◯ | ◯ | 介護スタッフ常駐 日常的な介護・機能訓練あり 初期費用(保証金・入居一時金)必要 |
なお、A型・B型の軽費老人ホームは徐々に少なくなっており、現在はケアハウスと呼ばれるC型が中心です。施設選びの際は、入居時費用、月額費用、提供されるサービス内容を詳しく確認したうえで検討しましょう。
グループホーム
グループホームは、認知症の高齢者が少人数で共同生活を送る施設です。家庭的な雰囲気の中、認知症のケアを受けながら生活できる場として注目されています。海外在住者で親に認知症の症状がみられる場合には、有力な選択肢の一つとなるでしょう。
グループホームは1ユニット9人以下の小規模な環境で、認知症ケアの専門知識を持ったスタッフがサポートします。ただし、地域密着型サービスのため、親の住み慣れた地域(市区町村)内の施設しか利用できない点には注意が必要です。
参考:厚生労働省「認知症対応型共同生活介護(グループホーム)」
サービス付き高齢者向け住宅
サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)は、安否確認と生活相談サービスが付いたバリアフリー構造の賃貸住宅です。親の自立度が比較的高い段階から利用できる施設として、関心を集めています。
必要に応じて外部の介護サービスを利用でき、親の状態変化に応じて柔軟にサービス内容を調整できることが大きなメリットです。一般的な賃貸住宅と同様、敷金などの初期費用のほか、家賃・管理費が月5~20万円程度かかりますが、立地や設備により大きく異なります。
参考:厚生労働省「サービス付き高齢者向け住宅について」
利用できる民間サービスのリサーチ

親の暮らしを支えるには、公的な介護サービスに加え、民間事業者による多様な生活支援サービスも活用するのが有効です。特に、海外在住者が対応できない緊急時の安否確認や、きめ細かな生活支援については、民間サービスのほうが柔軟に対応できる場合があります。地域の事業者やNPOなどが提供しているサービスを調べておきましょう。
見守りサービス
見守りサービスは、週1回など定期的に訪問し、安否確認や簡単な生活状況のチェックを行います。日本に住む親が心配な海外在住者にとっては、積極的に活用したいサービスの一つでしょう。見守りサービスには、以下のような種類があります。
- 定期訪問:定期的にスタッフが自宅を訪問して安否を確認
- 緊急時の駆けつけサービス:緊急通報時に警備員が駆けつけて対応
- カメラの設置:室内にカメラを設置して日常の様子を確認
- センサーの設置:トイレや浴室にセンサーを設置して安否や生活リズムを確認
- オート電話・メール:自動発信の電話やメールを通じて安否を確認
- 外出時の見守り:GPS機能付き見守り端末にて外出時の安全を確保
見守りサービスは、自治体が委託するケースもあれば、完全民間の有料プランもあります。報告内容をメールやLINEなどで家族に共有してくれるものもあり、遠く離れていても親の様子を把握できるので安心です。親の健康状態や生活環境などに応じて、必要なサービスを組み合わせましょう。
生活支援サービス(付き添い代行、買い物代行など)
生活支援サービスは、通院の付き添いや買い物、掃除など、日常生活に必要なサポートを行います。介護保険外のサービスとして自由度が高く、海外在住者が直接対応できないことを都度依頼できるので便利です。代行サービスには、以下のような種類があります。
- 家事代行サービス:掃除、洗濯、食事の準備などを行う
- 買い物代行サービス:食材や日用品の購入を代行
- 通院付き添いサービス:病院への送迎、診察の立ち会い、薬の受け取りを行う
- 外出・旅行の付き添いサービス:買い物や旅行などの付き添いを行う
- 不用品の処分代行:家財道具の処分、自宅内での移動などを手伝う
- 庭の手入れ代行:自宅の庭の草刈り、落ち葉の処分などを行う
生活支援サービスは、高齢者向けの家事代行サービスや地域のボランティア団体などが提供しています。サービス内容や利用料金はさまざまなため、よく確認して利用しましょう。
親の財産や重要書類の確認・整理

親の介護を進めるうえで、財産や重要書類の管理は避けて通れません。とくに海外在住者にとっては、現地から手続きを進める際に必要な情報がすぐ取り出せる状態にしておくことが大切です。万が一の入院や認知症の進行などに備えて、親との信頼関係を前提に、事前に整理・共有しておきましょう。
親との情報共有・リストアップ
まずは親と一緒に、財産や契約状況の棚卸しを行いましょう。銀行口座、不動産、有価証券、借入金の有無など、現在の資産状況を一覧にして把握します。海外在住者の場合、情報が合わないときに確認が難しいため、定期的にリストを更新しておくことも重要です。
年金の受給状況、医療保険や介護保険の内容、各種契約の更新状況なども併せて確認します。親が自分で管理している場合でも、緊急時に備えて情報を把握できる体制を整えておくのが理想です。親のプライバシーに配慮しつつ、介護に必要な範囲での情報共有について理解を求めましょう。
重要書類の整理と保管
将来の手続きに関わる重要書類は、見つけやすい場所にまとめて保管しておくと安心です。電子データとしてクラウドストレージに保存しておけば、海外からでも必要なときにすぐ確認ができます。定期的に書類の有効期限を確認し、必要に応じて定期的に更新しましょう。
- 戸籍謄本
- 印鑑、印鑑登録証明書
- 年金手帳、基礎年金番号通知書
- 預貯金通帳
- 有価証券
- 不動産の権利書 など
代理人・委任状の準備
介護や財産の管理を代行する場合、銀行手続きや行政手続きで「委任状」や「任意後見契約」が求められることがあります。海外在住者が親の各種手続きを代行する可能性がある場合は、親が元気なうちに準備しておくことが重要です。
一般的な委任状に加え、金融機関の代理人登録、医療機関での同意書(事前指示書)など、用途に応じて手続きや書類の準備を済ませておきましょう。成年後見制度の利用も検討し、必要に応じて専門家(行政書士や弁護士)に相談するのも有効です。海外在住で手続きの代行が難しい場合は、事前に家族や親戚に代理人を依頼しておくことをおすすめします。
参考:厚生労働省「成年後見制度とは」
海外在住者が親の介護に直面したときの選択肢

介護の必要性は突然訪れることも多く、海外在住者にとっては距離や時差の壁が大きなハードルになります。簡単に帰国できない状況の中、親にとって最善の介護方法を選ぶのは容易ではありませんが、親の状態や本人の希望、自分の生活環境を踏まえて現実的な対応策を検討することが重要です。親の介護が必要になったときの主な選択肢について解説します。
自分が住む国に親を呼び寄せる
海外在住者にとって、親を自分が住んでいる国に呼び寄せることは一つの選択肢です。特に帰国が困難で、かつ親が海外での生活に納得している場合には、検討してみるとよいでしょう。海外在住者が直接介護でき、日常的に親を見守れることは大きなメリットです。
ただし、長期滞在や移住をするには、ビザや医療制度が大きな課題となります。医療制度の違いにより、日本で受けていた治療が継続できない可能性もあるでしょう。言語の壁、文化の違い、友人関係の断絶など、親の生活の質にも大きな影響を与えます。海外在住者自身の家族(配偶者や子ども)にも影響を及ぼすため、総合的に判断することが重要です。
一時帰国して介護を行う
病気やケガによる一時的な入院・看護が必要な場合など、短期的なサポートが必要な状況では、海外在住者が一時帰国して親の看病・介護を行う選択肢もあります。親にとっては家族による直接的なサポートを受けられる安心感があり、海外在住者にとっても親の状況を直接確認できることが利点です。
一時帰国による介護では、海外での仕事や家族の都合、帰国費用、滞在期間中の生活費の確保など、事前の準備が欠かせません。帰国期間中に介護保険サービスの調整、医療機関との連携、今後の介護方針などを効率的に進める必要があります。一時帰国中にケアマネジャーなどと相談し、海外に戻った後も継続的に連携できる体制を整えましょう。
兄弟・親戚などに介護を依頼する
日本に家族や親戚がいる場合は、一時的にサポートをお願いすることもできます。まだ介護が必須ではない場合や、ちょっとしたサポートだけでよい場合には、現実的な選択肢になるでしょう。親が住み慣れた環境で生活を継続でき、身内による介護という親の希望にも応えられます。
兄弟・親戚への依頼では役割分担を明確にし、負担が偏らないようにすることが重要です。海外在住者は直接的な介護はできませんが、経済的な支援、情報収集、海外からの精神的サポートなど、自分ができる範囲で積極的に貢献する必要があります。介護を依頼した兄弟・親戚をサポートしつつ、定期的に連絡を取り合って良好な関係を保ちましょう。
介護施設への入所を検討する
介護が長期にわたる場合や、在宅介護が困難な場合には、介護施設への入所が選択肢に入ります。海外在住者にとって、専門的な介護サービスを24時間体制で受けられる安心感は大きく、親の安全確保と生活の質の維持を両立するには有効な選択です。
介護施設は、親の要介護度、認知症の有無、医療的なケアの必要性、経済状況などを総合的に考慮して判断する必要があります。海外在住者の場合、定期的な状況報告の受け取り、重要な決定事項への参加方法、緊急時の連絡体制、オンラインでの交流機会などを確認しておくことも大切です。待機者が多い施設もあるため、早めに検討して決断しましょう。
離れていてもできる介護サポートの工夫

海外にいながら親の介護をサポートするには、テクノロジーを活用したり適切な仕組みを構築したりすることが有効です。距離や時差はあっても、工夫をすれば海外にいながらでも親の状況を適切に把握して、必要な支援を提供できます。離れていても親の生活と健康を見守るための具体的な方法や、連携方法を把握しておきましょう。
定期的なビデオ通話・モニタリングの活用
ビデオ通話を活用して、親の様子をこまめにチェックしましょう。特に表情や声の変化、生活環境の変化などを画面越しに確認することで、異変に気づきやすくなります。定期的に電話して、食事の内容、睡眠の状況、服薬の管理、日常活動の変化などを尋ねましょう。見守りカメラやIoT家電を活用すれば、遠隔で体調や生活リズムのモニタリングも可能です。
地域包括支援センターやケアマネジャーとの連携
海外在住者にとって、地域包括支援センターやケアマネジャーとの密な連携は、効果的な介護サポートの基盤となります。定期的に電話やメールで情報交換を行い、親の状況を共有したり、必要に応じてサービス内容の見直しを提案したりすることが重要です。海外在住者の一時帰国予定、緊急時の対応方法なども伝えておくと、スムーズに連携できるでしょう。
日本にいる親族・知人とのネットワーク作り
親の近くに住む兄弟や親戚、信頼できる友人・知人などがいれば、何かあった際の連絡先やサポート役としてお願いしておくと安心です。とくに急病や災害時には、誰がどう動くかを事前に決めておくと混乱を避けられます。近隣住民や地域の民生委員、かかりつけ医院のスタッフなど、親の日常生活に関わる人々との関係も構築しておきましょう。
介護費用の送金・支援
海外在住者が親の介護をサポートするうえでは、経済的な支援方法を事前に整備しておくことが重要です。介護保険サービスの自己負担分、民間サービスの利用料、医療費、生活費など、様々な費用を迅速かつ確実に送金できるよう準備しておきましょう。
国際送金の方法は多様化しており、銀行間送金、オンライン送金サービス、プリペイドカードの活用など、それぞれにメリットとデメリットがあります。送金手数料、為替レート、送金所要時間、受取方法を比較検討し、最も適した方法を選択することが重要です。送金額が大きくなる場合は、居住国と日本における税務の取り扱いも確認しておきましょう。
まとめ|「もしも」の備えが親子双方の安心に
海外在住者が日本の親の老後に備えるために重要なのは、事前準備と連携体制の構築です。親が健康なうちから介護について話し合い、本人の希望や必要な支援を確認しておきましょう。一人で抱え込まず、民間サービスや公的支援を活用し、周囲と役割分担することで、海外での生活と両立しながら継続可能な介護支援が実現できます。