米国に呼び寄せた母の認知症が進行。決断を迫られた親の住まい

日本でひとり暮らしになった母を、アメリカに呼び寄せて一緒に暮らす。
それは「離れて暮らす不安」を解消するための、前向きな選択でした。
しかし、時間とともに母の様子が少しずつ変わっていきます。
英語が話せず、車も運転できない環境。
そして、気づかないうちに進んでいた認知症。
「このまま、アメリカで暮らし続けることは本当に母のためなのだろうか」
海外在住だからこそ直面する、親の“住まい”と“介護”の選択。
もしあなたが同じ立場だったら、どう決断するでしょうか。
相談者のAさんは、アメリカ在住40年以上。
家族とともに現地で生活し、仕事も持ちながら暮らしていました。
ご両親は日本の実家で夫婦二人暮らしでしたが、お父様が病気で他界。
お姉様もすでに亡くなられており、Aさんは実質的に「一人娘」という状況でした。
ひとり日本に残された70代後半のお母様の今後を考え、
Aさんは実家を売却し、その資金を老後費用に充てて
お母様をアメリカに呼び寄せ、一緒に暮らし始めました。
当初は、お孫さんとの生活や新しい環境を楽しんでいたお母様。
家族としても「これで安心できる」と感じていたそうです。
少しずつ、お母様の日常に変化が現れ始めます。
・外出を嫌がるようになった
・楽しみにしていたテニススクールに行かなくなった
・一人で部屋にこもる時間が増えた
医療関係で働いていたAさんは、
「もしかして、認知症の初期症状ではないか」と感じ始めました。
英語ができず、車も運転できないお母様は、
買い物や外出のたびにAさんの付き添いが必要。
一方で、お孫さんは成長し、学校や習い事で忙しくなっていきます。
やがてお母様は、
「1分前のことも思い出せない」状態になり、
日中も誰とも話さず、家の中でひとり過ごす時間が増えていきました。
海外での同居は、
安全である一方、社会的に孤立しやすい。
この状況が、認知症の進行をさらに早めているのではないか——
Aさんは強い不安を抱えるようになりました。

厚生労働省の資料1によると、2040年には認知症患者と軽度認知障害(MCI)患者数の合計が約1,200万人なると予想されています。認知症は、誰の親にも起こりうる身近な問題です。
「このままでいいのか」日本での暮らしを模索
「このままアメリカで暮らし続けることが、母の幸せなのだろうか」
Aさんがたどり着いたのは、
日本語で安心して暮らせる環境に戻るという選択肢でした。
日本の高齢者向け施設であれば、
・言葉の不安がない
・日本食を食べられる
・文化や生活習慣もなじみがある
・人との関わりを持てる可能性がある
そう考えたAさんは、
お母様の日本での住まい探しについて、専門家に相談する決断をします。
まずは、一時帰国前から日本の老人ホーム(以下、ホーム)探しをスタート。
限られた滞在期間を有効に使うため、事前に情報を整理しました。
特に重視したのは、
「永く安心して暮らせる“家”かどうか」という視点。
運営会社の姿勢、スタッフ体制、医療連携、費用の仕組みなどを確認し、
条件を満たしたホームをいくつか候補に絞りました。
一時帰国中は、事前に選んだ複数のホームを実際に見学。
施設の雰囲気、スタッフの対応、入居者の表情、周辺環境まで確認し、
スピード感をもって比較・検討を進めました。
専門家のチームで動いた結果、
短期間で入居先を決定し、契約まで完了。
現在、お母様は日本のホームで生活され、
ボランティアの方と一緒に趣味のテニスを楽しむ日々を送っています。
「アメリカにいた頃より、母はイキイキしています」
Aさんはそう話してくださいました。
この事例から見えてくるのは、
「一緒に暮らすこと=最善」ではないという現実です。
海外在住の場合、
・言葉
・移動手段
・人とのつながり
これらが失われることで、親が孤立してしまうケースは少なくありません。
さらに、認知症が進行すると、
後から入れた言語(英語など)を忘れるケースも多くなります。
アメリカ人が経営するホームに入居した場合、
日本語しか話せなくなっているため
「6ヶ月間ホーム内で話をしていなかった」という事例もあります。
大切なのは、
「どこで暮らすか」ではなく、
「その人らしく、安心して暮らせるか」。
そして、選択肢を持つためには、
元気なうちから情報を集め、
ひとりで抱え込まず、第三者の力を借りること。
海外に住んでいても、
親の幸せな暮らしを一緒につくっていくことはできます。
この事例が、同じ立場の方にとって
一歩を踏み出すきっかけになりますように。
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※本記事は、海外在住者の老後・介護をサポートする一般社団法人「サロンドハース」代表・よこばたけあやみ氏が、日刊サンで連載中の『日本の介護最新情報』に基づき、再構成したものです。(執筆:海外暮らしINFO/監修:サロンドハース代表 よこばたけあやみ氏 )※記事内の画像はイメージです。
- 1:厚生労働省「令和7年版高齢社会白書」 ↩︎





