老後・介護

海外在住者が介護保険サービスや民間サポートを利用して親を見守る方法

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海外に住みながら日本の親を見守ることは、距離や時間の問題から難しいのが現実です。経済的・精神的にも負担が大きくなります。この記事では、海外在住者が日本の公的介護サービスや民間支援を活用し、親を見守るための具体的な方法をまとめました。公的・民間のサービスを上手に組み合わせ、遠距離からでも無理なく親をサポートしましょう。

日本の公的介護サービスの利用方法

海外に住んでいても、日本に住む親が介護保険制度を活用できるようサポートすることは可能です。介護保険制度の仕組みを理解し、地域の支援窓口と連携しながら安心できる介護環境を整えましょう。

介護保険制度の基本と利用の流れ

まずは日本の介護保険制度の仕組みと、利用するための流れについて解説します。

介護保険制度の仕組み

日本の介護保険制度は、40歳以上の人が保険料を支払い、65歳以上で介護が必要と認定された場合、公的な介護サービスを1~3割の自己負担で利用できる仕組みです。サービスを利用するには、市区町村へ「要介護認定」の申請を行い、認定を受ける必要があります。

こまめに連絡を取り合うこと委任状を用意すれば海外在住でも親に代わって申請でき、市区町村によっては郵送や電話、メールでのやり取りにも対応しています。高齢者が住み慣れた地域で安心して暮らせるよう支援することを目的とし、必要なサービスを組み合わせて利用することが可能です。

参考:厚生労働省「介護保険制度について

介護保険制度の利用の流れ

介護サービスを利用したい場合、まずは市区町村の介護保険担当窓口で「要介護認定」を申請します。海外在住者の場合、一時帰国時に親と一緒に申請するか、委任状を作成して代理申請をしましょう。帰国が難しい場合は、日本の親族や知人、または後述する「地域包括支援センター」の職員に代理申請を依頼してください。

申請後は、市区町村の職員またはケアマネジャー(介護支援専門員)が自宅を訪問し、親の健康状態を調査します。訪問調査のあと、調査結果と主治医意見書をもとに介護認定審査会で要介護度が認定され、利用できるサービスの種類や支給限度額が確定する流れです。海外在住で代理申請を依頼した場合は、認定されるまでの情報を共有してもらいましょう。

地域包括支援センターの役割と相談方法

海外在住者にとって、地域包括支援センターは親の介護に関する情報収集と支援調整の重要なパートナーです。地域包括支援センターの役割と相談方法を把握しておきましょう。

地域包括支援センターの役割

地域包括支援センターは、各市区町村に設置された高齢者の総合相談窓口です。保健師・社会福祉士・主任介護支援専門員などの専門職が連携し、介護予防から重度の介護まで幅広く対応しています。

相談内容は多岐にわたり、介護保険サービスの利用方法、認知症に関する相談、虐待の通報・相談、権利擁護に関することなど様々です。海外在住者の場合、「遠距離介護でどのようなサービスが利用できるか」「緊急時の連絡体制をどう構築するか」「親が一人暮らしを続けるための支援方法」などの相談に対応してもらえます。

地域包括支援センターへの相談方法

地域包括支援センターは、主に日中(通常の開庁時間内)に相談業務に対応しています。海外在住者で日本に住む親の相談をしたい場合は、親の住む自治体のセンターに連絡すれば、状況を把握したうえで、必要なサービスや申請方法を案内してもらえるでしょう。

各センターの連絡先や開庁時間は、市区町村の公式サイトに掲載されています。「○○市(親の居住地)地域包括支援センター」で検索するか、厚生労働省の「地域包括支援センターの一覧」から探すのがおすすめです。海外在住者は、定期的に電話やメールでセンターと連絡を取り合い、日本に住む親の状況変化を共有してもらいましょう。

ケアマネジャーとの連携でできること

ケアマネジャー(介護支援専門員)は、要介護認定を受けた人に対してケアプランを作成し、適切な介護サービスを調整するのが役割です。親が在宅介護を受ける場合、日常的にケアマネジャーが関わることになるため、海外在住者にとっては重要な連絡先となります。

海外に住む家族が「主たる連絡先」としてケアマネと定期的に連絡を取り合うことで、親の様子やサービス内容変更などの情報共有が可能です。月1回以上の電話やメールでのやり取り、ビデオ通話での面談などに対応してもらえる場合があります。こまめに連絡を取り合うことで、離れていても信頼関係を築いて連携できるでしょう。

ポイント:海外在住の子どもが日本に住む親の連絡窓口になれる?

海外在住者が介護サービスの連絡窓口になることは十分可能です。日本に住む親から正式な委任を受けておけば、市区町村への各種申請を代理で行えます。ただし、緊急時に備えて親族や近隣の支援者と連携し、複数の連絡ルートを確保しておきましょう。

親の生活をサポートする民間サービス

公的介護サービスだけではカバーしきれないニーズには、民間サービスの活用が有効です。海外に住んでいても、見守りや日常支援など、多様なサービスを組み合わせることで親の生活を支えられます。

1.見守りサービス

民間企業による見守りサービスは、海外在住者にとって親の安否確認や緊急時の対応に役立つ重要な手段です。週1回の訪問や電話による安否確認、緊急通報ボタンの設置などにより、万一の際に迅速な対応が期待できます。

多くのサービスでは、メールやアプリで家族に状況が報告されるため、離れていても親の様子を詳細に把握できるのが利点です。日本では、ALSOKやセコムなどの警備会社が展開するサービスが代表的で、自治体によっては高齢者支援として補助対象になる場合もあります。

2.日常生活のサポートサービス

日常生活を支える民間サービスとしては、家事代行、配食サービス、通院付き添いなど多岐にわたります。親が介護認定を受けていない、または軽度の場合に有効です。海外からはインターネットでの申込みやカード決済もでき、家族が定期契約を結んでサポートするケースも増えています。本人の意思を尊重しながら、無理のない範囲で導入を検討しましょう。

家事代行サービス

家事代行サービスでは、掃除、洗濯、買い物、簡単な料理などを専門スタッフが代行します。週1~2回の定期利用が一般的で、親の体力や健康状態に応じてサービス内容のカスタマイズが可能です。海外から事前に相談することで、親の好みや生活パターンに合わせて細やかに対応できます。

配食サービス

配食サービスは、栄養バランスの取れた食事を自宅まで配達するサービスです。高齢者向けのやわらか食、減塩食、糖尿病食など、健康状態に応じた食事も提供でき、離れていても親の栄養管理ができます。親の健康状態や嗜好を配食業者に伝えることで、適切な食事プランの選択が可能です。

通院付き添いサービス

民間の通院付き添いサービスは、病院受診時の同行や介助、入退院時のお世話を行うものです。医師からの説明を同席して聞き、海外在住などの離れた家族に報告するサービスもあります。重要な診察や検査の際に活用することで、海外にいながらでも親の医療情報を正確に把握できるでしょう。

送迎サービス

送迎サービスは、車いす対応車両で病院や施設への送り迎えを行うサービスです。通院や買い物、理美容院への移動など、様々な場面で利用できます。送迎時には、介護の有資格者が移動中の安全確保や乗降時の介助を行うので安心です。海外在住者の場合、親の通院スケジュールに合わせて事前予約を行えば、確実な移動手段を確保できます。

3.地域ごとのNPO・協会・団体の支援

地域密着型で活動するNPO法人や協会、団体も、高齢者の支援を行っています。全国規模の大手企業だけでなく、地域の特性を理解した小規模事業者との連携も重要です。

NPO法人

NPO法人では、高齢者支援に特化した専門的なサービスを提供しています。認知症カフェの運営、独居高齢者の見守り活動、生活支援サービスなど、公的サービスでは対応しきれない細やかな支援を行っているのが魅力です。多くのNPOでは、メールや電話で海外在住の家族からの相談も受け付けているため、地域の実情に応じたアドバイスがもらえるでしょう。

社会福祉協議会

社会福祉協議会は、各市区町村に設置された民間の福祉団体です。ボランティア活動の調整、生活福祉資金の貸付、福祉サービスの情報提供などを行っています。親が住む地域の社会福祉協議会のサイトで地域特有の支援制度や活動の情報が得られるので、海外からでも情報収集が可能です。親に必要な情報を入手すれば、地元密着の支援を活用できます。

シルバー人材センター

シルバー人材センターは、高齢者の就業支援と軽作業の請負を行う団体です。庭の手入れ、大掃除、簡単な修理作業など、家事代行では対応しきれない作業を依頼できます。地域の高齢者が作業を行うため、親にとっても良い話し相手になるでしょう。

オンラインでできる介護支援のアイデア

テクノロジーを活用すれば、海外からでも親の見守りやコミュニケーション、費用管理などの支援が可能です。デジタルツールを上手に組み合わせ、親の生活をサポートしましょう。

1.見守りカメラ・センサー・スマート家電の導入

IoTテクノロジーを活用した見守りシステムは、海外在住者にとって最も効果的な遠隔介護ツールの一つです。親の自宅にネットワークカメラや人感センサー、ドアセンサーを設置することで、海外にいても親の日常の様子を確認できます。

Wi-Fi環境を整えれば簡単にスマート家電を導入でき、エアコンや照明の遠隔操作や、スマホアプリからリアルタイムで情報の取得が可能です。日本国内でも高齢者向けのIoT製品が増えているため、オンラインショップから海外決済で購入・設置依頼もできます。プライバシーへの配慮と、親の同意を得たうえで導入を検討しましょう。

2.デジタルコミュニケーションツールの活用

デジタルコミュニケーションツールは、海外在住者と日本に住む親をつなぐ最も身近で効果的な手段です。たとえば、LINEのビデオ通話や音声メッセージは高齢者にも比較的使いやすく、短時間でも日常的に「顔を見て話す」ことが安心感につながります。

Zoomなどを使えば、他の家族やケアマネジャーと三者面談ができ、家族全体でサポート体制を整えるうえでも有効です。スマートフォンやタブレットの文字設定を大きくしたり、音声アシストを活用したりすれば、高齢の親でも使いやすい環境を整えられます。スマートフォンやアプリの使い方を紙に書いて送るのも一つの手です。

3.クラウドでの書類共有や費用管理

介護に関連する書類や領収書、契約書などは、クラウドサービスを使って一元管理するのがおすすめです。たとえば、Google DriveやDropbox、One Driveなどが代表的でしょう。クラウドサービスを活用すれば、海外にいながら日本の家族やケアマネジャーと共有でき、必要なときにすぐアクセスできます。

さらに、支払い記録や介護費用の管理には、ExcelやGoogleスプレッドシートを使うと、月ごとの比較や予算管理も容易です。レシートを写真でアップロードしておくと、費用の透明性も確保できるでしょう。オンラインバンキングを活用すれば、海外から支払い代行や送金も可能です。必要に応じて、親や家族との同意のもと費用管理を行いましょう。

サービス選びで注意すべきポイントとトラブル防止策

海外にいると緊急時に迅速な対応が難しいため、介護サービス選びはより慎重に行う必要があります。料金や契約内容、トラブル時の対応まで事前に確認し、安心して任せられる体制を整えることが大切です。

親や現地の家族の意向を尊重する

介護サービスを選ぶ際には、利用する親本人の意向を最優先に考えることが重要です。高齢の親にとって、自分の生活リズムやプライバシーを尊重してくれるサービスだと大きな安心材料になります。兄弟姉妹や近隣に住む親戚がいる場合は、あわせて意見を聞きましょう。

海外にいることを理由に自分の判断だけでサービスを選択し、親の意向や家族・親戚の意見を無視すると、トラブルのもとになる可能性があります。リモートでできることには限界があるため、信頼できる現地の家族や支援者と協力体制を築くことが大切です。

契約内容・料金・提供範囲の確認を徹底する

介護サービスを利用する際は、契約書の内容を細かく確認しましょう。どのサービスが含まれていて、何が別料金になるのか、キャンセル時の取り決めや返金規定はあるのかなどを明確に把握することが重要です。

とくに訪問介護などは時間単位での課金となり、思った以上に費用がかさむこともあります。料金体系が複雑なケースも多いため、分からない点はメールや電話で納得いくまで質問しましょう。海外からであることを伝えると、リモートで説明をしてくれる場合もあります。できれば日本在住の家族と一緒にチェックし、二重の確認体制を整えるのが理想です。

トラブル時の対応や苦情相談窓口を把握しておく

万が一サービスに問題が起きた場合、迅速に対応できるよう「苦情受付窓口」や「連絡先の一覧」は事前に控えておく必要があります。介護保険サービスであれば、各市区町村の「介護保険課」や「地域包括支援センター」が相談窓口です。民間サービスでも、対応マニュアルやサポートセンターなどが整備されているか確認しましょう。

契約書に明記されていない場合でも、過去の事例や第三者機関への報告体制について尋ねておくと安心です。トラブルが大きくなった場合には「消費生活センター」や「国民生活センター」など公的な相談機関の活用も視野に入れましょう。海外にいても代理人を通じて相談可能な場合があります。

海外から日本の介護サービスを利用する際のポイント

海外在住でも、日本の親の介護を支えるためにできることは数多くあります。公的・民間のサービスやテクノロジーを上手に組み合わせ、離れていても安心できるサポート体制を築くことがポイントです。負担を抱え込まず、複数の選択肢を活用しましょう。

1.多様な選択肢を組み合わせてサポートする

海外在住者が日本に住む親を見守るためには、単一のサービスに依存せず、複数の選択肢を組み合わせることが重要です。公的な介護保険サービスをベースにしつつ、見守り訪問サービスや家事代行、地域の支援サービス、オンラインコミュニケーションツールなどをバランスよく活用しましょう。

一人で何もかも抱え込もうとすると、心身ともに疲弊してしまいます。介護を「チーム」で行う意識を持ち、地域の支援者や現地の親族、プロの介護職などと役割を分担することが大切です。海外に住んでいても、仕組みを整えれば質の高いサポートを実現できます。

2.公的・民間の支援とテクノロジーを活用する

海外在住者が日本の親を介護するには、テクノロジーの活用が欠かせません。親の理解度に合わせて、無理のない範囲からデジタルツールを導入しましょう。スマートフォンの基本操作から始まり、LINEやビデオ通話、見守りカメラ、各種センサーの順に導入を進めることで、デジタル機器に対する親の抵抗感を最小限に抑えられます。

従来の公的・民間サービスと、デジタル技術を効果的に組み合わせることも重要です。見守りセンサーやスマート家電で定期的にデータを得ておけば、医療機関やケアマネジャーに情報を提供できます。親の生活パターンの変化や健康状態の変化を早期に発見できると、予防的な介護にもつなげられるでしょう。

3.信頼できる「現地のキーパーソン」を確保する

海外から親の介護を見守るうえで、親の身近にいる人の存在は不可欠です。たとえば、近くに住む親族や、日頃から訪問しているケアマネジャー、民間ヘルパーなどが「現地のキーパーソン」になります。

体調の急変やサービスの変更、行政手続きが必要になったときなど、柔軟に対応できる人を確保しておけば、海外からでもスムーズに指示や判断ができるでしょう。親との相性も考慮し、信頼関係が築ける人を選ぶことがポイントです。

4.帰国時にまとめてできる手続きをリスト化しておく

一時帰国の際に親の介護や生活支援を見直すためには、事前準備がカギとなります。ケアプランの見直し、介護施設やサービス事業者の訪問、行政相談、医療機関の受診同行などをリスト化し、限られた滞在期間で効率的に対応できるようにしましょう。

とくに役所や支援センターへの訪問は、予約を取っておくとスムーズです。介護保険の手続きや認定更新など、時期によって必要な対応が異なるため、スケジュールを把握して帰国の計画を立てることも重要です。

5.将来の介護・終末期について事前に話し合っておく

親がまだ元気なうちに、将来的な介護や終末期の希望を話し合っておきましょう。本人が望む暮らし方(在宅介護か施設入所か)、延命治療に対する考え、財産管理や医療判断の代理人などを確認しておくのがおすすめです。万が一のときに家族が判断に迷わず行動できるよう、本人の意志を共有しておくことが後悔のない介護につながるでしょう。

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