老後・介護

海外在住者が日本の親を呼び寄せるために必要な手続きとは

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親の介護が必要になったとき、海外在住の子どもが「親を居住国に呼び寄せる」という選択肢をとるケースも増えています。しかし、親のビザ取得や医療体制の整備、文化面でのサポートなど、事前に考慮すべき点は少なくありません。この記事では、親を海外に呼び寄せて介護するための手続きや各国制度の違い、注意点まで詳しく解説します。

海外に親を呼び寄せるために必要な8つの条件

海外在住者が親を呼び寄せたくても、単に家族であるという理由だけでは認められません。親を呼び寄せるには、海外在住者自身が法的・経済的に安定した立場であることが求められます。次の要件をチェックして、申請前に自分の状況と照らし合わせましょう。

1.親子関係が証明できること

海外在住者が親を呼び寄せる際、最も重要な要件が確実な親子関係の証明です。出生証明書、家族関係証明書などの公的書類により、生物学的または法的な親子関係を明確に立証しなければなりません。日本の戸籍謄本は世界的に信頼性が高く、多くの国で親子関係の証明として使用できます。

ただし、書類は居住国の言語への公式翻訳と、在外日本領事館や居住国の公証機関での認証を求められるのが一般的です。婚姻・離婚・養子縁組などで戸籍に変更がある場合、その経緯を説明する補足書類を添付すると、スムーズに審査が進むでしょう。

2.居住国の永住権や市民権があること

親を長期的に呼び寄せたい場合、申請者の滞在資格も重要な要件です。多くの国では、永住権保持者または市民権者のみが家族の呼び寄せを申請できる制度となっています。

たとえば、アメリカの場合、市民権者は両親の移民ビザを申請できますが、永住権者は配偶者と未成年の子どもに限定され、両親は認められません。イギリスやドイツも自国民か永住者に限って申請が可能です。

海外在住者は自身の滞在資格を十分に確認し、必要に応じて永住権や市民権の取得を先に進める必要があります。永住権の更新時期や市民権申請中の場合は、手続きの順序を慎重に計画して進めましょう。

3.経済的扶養能力があること

経済的に親を支える力があることは、ほぼすべての国で必須条件です。単に収入があるだけでなく、長期間にわたって親の生活費、医療費、介護費用などを安定的に負担できる水準が要求されます。

多くの国では、政府が定める最低所得基準(Poverty Guidelines等)の125%~150%以上の年収が必要です。専門職や管理職など安定した職業に就いていることも、重要な評価要素とされます。フリーランスや個人事業主の場合は、過去数年分の決算書や納税証明書、契約書などにより事業の安定性を証明する必要があるでしょう。

収入証明としては、雇用証明書、給与明細、納税申告書、銀行残高証明書などの提出を求められるケースが一般的です。経済力不足の場合は、追加の保証人を立てることで要件を満たせる国もあります。

4.安全かつ快適な住居を確保できていること

親の滞在先がすでに確保されていることも審査で問われます。一部の国では、単に住む場所があるだけでなく、高齢の親が安全かつ快適に生活できる住環境であることが条件です。

自宅で同居する場合には、住居の広さや部屋数、安全性、バリアフリー対応の有無、医療機関へのアクセスといった点が審査に含まれる場合もあります。

賃貸の場合は、家主の同意書や賃貸契約書の提出、持ち家の場合は登記簿や固定資産税証明書などの提出も必要です。公共住宅に住んでいる場合、親を迎えることで規約違反にならないかを確認しておきましょう。

5.保険・医療への対応が整っていること

高齢の親を呼び寄せる際には、医療・介護の準備を整えておくことも不可欠です。多くの国では、呼び寄せた家族の医療費を全面的に負担する義務があります。公的健康保険への加入義務がない国では、民間保険に加入して高額な医療費のリスクへの備えが必要です。

滞在中の医療費を申請者が全額負担できることを示す必要があるため、保険の加入証明や、医療機関の受診体制を説明する文書の提出が求められる場合もあるでしょう。

居住地域の医療機関の状況、日本語対応可能な医師の有無、緊急時の対応体制なども事前に調査し、親の医療ニーズに対応できる環境を整備することが必要です。

6.親の年齢や健康状態が条件を満たすこと

呼び寄せる親の年齢や健康状態は、審査での重要な要件の一つです。高齢であるほど医療費負担のリスクが高くなるため、扶養するための十分な経済力が求められる傾向があります。

たとえば、イギリスでは「要介護状態で、他に支援者がいないこと」が条件です。医師の診断書や健康診断書、通院履歴、介護記録の提出が求められることもあるでしょう。感染症の検査、予防接種の証明、精神的な健康状態の評価が含まれる場合もあります。

7.親を呼び寄せる「必要性」があること

親を呼び寄せる上で最も重要とされるのが「呼び寄せなければならない合理的な理由」があるかどうかです。多くの場合、単に「一緒に住みたい」という希望だけでは認められません。日本で生活を続けるのが困難であることの具体的理由が求められます。

たとえば、次のような例です。

  • 日本に親を見守る家族がいない
  • 親の健康状態が悪化し、一人暮らしが困難になっている
  • 認知症が進行して支援が必要
  • 経済的な困窮状態にある

明確な理由を提示できなければ審査が通らないこともあるため、介護・看護の必要性や緊急性を医師の診断書や日本の行政機関の資料などで客観的に示すことが重要です。

「なぜ申請者が日本に戻って介護をするのではなく、親を呼び寄せる必要があるのか」という点が厳しく審査されるため、説得力のある理由と裏付けとなる書類を準備しましょう。

8.申請書類の整合性・信頼性があること

ビザの審査では、提出するすべての書類が正確であることに加え、内容に一貫性があるかが重要になります。たとえば、招へい理由と親の健康診断書や生活状況の記録に矛盾がないか、扶養者の収入証明と納税履歴に食い違いがないかといった点です。

書類の作成日付、有効期限、翻訳者の資格、発行機関の正当性なども厳格にチェックされます。翻訳書類の不備や記載ミス、日付の矛盾は却下の要因となるため、提出前に専門家や行政書士による確認を受けると安心でしょう。必要に応じて裏付けとなる資料(写真や通話記録など)を添えて、信頼性を高めるのも一つの手です。

申請書の記載内容に矛盾や不明確な点があると、追加説明や面接が必要になる場合もあります。虚偽記載や書類偽造が発覚した場合は即座に申請却下となり、将来の申請にも悪影響を与える恐れがあるため、すべての情報は正確かつ誠実に記載しましょう。

親を呼び寄せるために必要な手続きと申請フロー

海外在住者が日本に住む親を呼び寄せるには、居住国の複雑なビザ制度を理解し、段階的に申請手続きを進める必要があります。準備から渡航まで数か月から1年以上を要する場合もあるため、早めに情報収集を行って計画的に進めることが重要です。手続き方法は国ごとに異なりますが、渡航までの一般的な流れを把握しておきましょう。

1.呼び寄せ先の国のビザ制度を確認

親を海外に呼び寄せるには、居住国において親の滞在を許可するビザ制度を確認する必要があります。多くの国では「親族の呼び寄せビザ」や「扶養家族ビザ」「長期訪問ビザ」などがありますが、申請要件は国によって様々です。

たとえば、アメリカでは市民権保有者以外は、親の永住権申請ができません。イギリスでは「親に介護が必要で他に支援者がいないこと」などの厳格な条件があります。オーストラリアでは複数のビザがあり、待機期間や費用も様々です。

まずは各国の大使館や移民局の公式情報を確認し、制度全体の概要を把握しておくことが重要です。必要に応じて移民弁護士や専門コンサルタントに相談する方法もあります。制度変更も頻繁にあるため、定期的な情報更新を心がけましょう。

2.必要書類の準備

ビザを申請する際は、親子関係や経済力を証明するために多くの書類が必要です。一般的には、以下のような書類の提出が求められます。

  • 申請者(海外在住者)の市民権・永住ビザを証明する書類
  • 親子関係証明書類(出生証明書、洗礼証明書など)
  • 経済力を証明できる書類(収入証明書、納税証明書、雇用証明書など)
  • 居住証明書(居住地の契約書、住宅登記簿など)
  • 保険証明書(医療保険の加入証明書など)
  • 親の身分証明書(パスポート)
  • 親の健康診断書

提出書類は居住国の言語への翻訳・公証が必要なことが多いため、早めの準備が不可欠です。海外在住者の場合、日本領事館での認証手続きや居住国での公証手続きなど、複数の機関での手続きが必要になることを想定し、十分な時間的余裕を持って準備を始めましょう。

3.ビザの申請・審査

書類が揃ったら、現地の移民局または大使館を通じて正式なビザ申請を行います。オンラインでの申請が主流ですが、本人による書類提出や面接が必要な場合もあるので、事前に申請方法をよく確認しておきましょう。

審査では、親子関係・扶養意思・生活設計の現実性が問われます。「なぜ日本ではなく海外での介護が必要なのか」という合理性も重視され、書類の整合性と説明力が問われることも少なくありません。特に健康上の理由で呼び寄せる場合は、医師の診断書や介護が必要である証拠書類の提出が求められることもあるでしょう。

申請後の審査期間は国によって異なり、数ヶ月から数年に及ぶこともあります。審査中に追加書類の提出や面接を求められたときは、迅速に対応することが重要です。審査状況は定期的に確認し、必要に応じて移民弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。

4.招へい・保証人手続き

海外在住者が居住国に親を呼び寄せる際には、招へい・保証人手続きも必要です。多くの国では、呼び寄せる側が親の生活費、医療費、住居費といった負担の責任を明記した「誓約書」や「保証書」の提出が求められます。

たとえば、アメリカでは「Affidavit of Support(扶養宣誓供述書/I-864)」の提出義務があり、カナダでは、申請者の署名が入った「Undertaking(誓約書)」が必要です。オーストラリアでは「Assurance of Support(経済保証書)」の提出が求められます。

保証人となるには、安定した収入と滞在資格の保有が必須で、書類に不備があると審査に大きく影響する恐れがあるので注意してください。多くの国では、ビザの申請時またはビザ審査の最終段階や面接の前に提出が求められます。保証期間は国によって異なりますが、5年から20年と長期にわたることが一般的です。

5.ビザの発給・渡航

審査に通過すれば、ビザが発給され、親の渡航が可能となります。渡航前には航空券の手配や現地の保険加入、医療機関・施設との連絡体制の構築などを準備しましょう。

特に高齢の親を海外に迎える場合、長時間のフライトに備えた健康管理や、必要な医薬品の準備が欠かせません。入国後は、移民局での手続きや居住地での住民登録、健康保険への加入手続きなどが必要なため、ビザ発給後も継続的なフォローが求められます。

今後の更新手続きや緊急時に備えて、重要書類のコピーはしっかり保管しておきましょう。ビザの条件や更新要件も十分に理解し、親に説明しておくことも重要です。

主要国別・親の呼び寄せ制度の違い

親を海外に呼び寄せる制度や条件は、国ごとに大きく異なります。ビザの種類、申請要件、審査期間、費用など、国ごとの特徴を正確に理解することが重要です。ここでは、日本人居住者が多い主な6ヶ国について、呼び寄せ制度の概要や要件、注意点などを紹介します。

なお、申請者の個別事情や制度変更によって必要な書類が異なる場合もあるため、各国の大使館・領事館、移民局などの最新情報を必ずご確認ください。

※ 海外在住者の子どもを「申請者」として説明しています。

アメリカの場合

アメリカでは、米国市民に限り、親を永住目的で呼び寄せられる「IR-5(移民ビザ)」の申請が可能です。永住権(グリーンカード)保持者には、親の呼び寄せ権限がありません。

申請時には、親子関係を証明する出生証明書、収入証明書(扶養能力の証明)、扶養宣誓書などの提出が求められます。書類審査を通過したあと、最終的に在日米国領事館での面接を経てビザが発給される流れです。ビザの上限がなく比較的取得しやすい一方で、米国に移住する意思が必要であり、一時滞在目的では認められません。

該当ビザ・制度名IR-5(親の移民ビザ)
年間受付数無制限
申請資格・21歳以上
・米国市民(市民権保有者)であること
※永住権保持者(グリーンカード保持者)は申請不可
・米国に居住していること
申請条件・親が米国外に居住していること
・最低収入要件を満たしていること
必要書類・親族移民請願書(I-130)
・扶養宣誓供述書(I-864)
・移民ビザおよび外国人登録申請書(DS-260) 
・申請者の市民権証明書
・収入証明書(直近の課税年度における確定申告書のコピーなど)
・親子関係証明書(出生証明書など)
・有効なパスポートのコピー
・指定医での親の健康診断書
・居住歴のある国(16歳以降・6か月以上)の警察証明書のコピー
審査期間の目安・約12~18ヶ月
注意点・補足・親の入国後に永住権(グリーンカード)を付与
・親が米国大使館で面接後にビザを発給
参照:在日米国大使館・領事館 家族に基づく移民ビザ, 米国国務省領事局 移民ビザの手続き

カナダの場合

カナダには「Parents and Grandparents Sponsorship Program(PGP)」と、最大5年間の一時滞在を認める「Super Visa」の2つがあります。PGPは抽選制で、選ばれた場合に限り、永住権の申請権が与えられる仕組みです。

一方、Super Visaは、最長10年間有効な長期訪問ビザで、一度の入国につき最大5年間の滞在ができます。Super Visaは訪問ビザよりも長期滞在ができるため、多くの移民が活用しているビザの一つです。ただし、永住権ではないため公的医療保険の対象外となる点には注意してください。

該当ビザ・制度名PGP(親・祖父母プログラム)Super Visa
年間受付数20,500件(2025年は新規受付停止)無制限
申請資格・18歳以上
・カナダ国民または永住権保持者
・カナダに居住している
・抽選で申請権を獲得した人
・18歳以上
・カナダ国民または永住権保持者
・カナダに居住している
申請条件・過去3年間、最低収入基準を満たす
(家族人数に応じて変動)
・移民規則の要件を満たす
・親に犯罪歴がない
・親の健康状態に問題がない
・過去1年間、最低収入基準を満たす
(家族人数に応じて変動)
・親がカナダの医療保険に加入している
・親に犯罪歴がない
・親の健康状態に問題がない
必要書類・親子関係証明書
・永住者(市民権)証明書
・収入証明書(過去3年間)
・親の移民向け健康診断証明書
・親の警察証明書
・スポンサー契約書
・申請者の署名入り保証書
・パスポート
・親子関係証明書
・永住者(市民権)証明書
・収入証明書(過去1年間)
・親の医療保険加入証明書
・親の移民向け健康診断証明書
・親の警察証明書
・カナダ居住者(申請者である子ども)の署名入りレター
・パスポート
審査期間の目安・約1~3年・約20~24ヶ月
注意点・補足・両親の永住権取得を目的とする制度
・抽選で申請権を獲得する必要あり
・人気が高く抽選倍率が高い
・生体認証(写真と指紋)の登録あり
・長期滞在ビザ
・10年間有効
・一度の入国で最大5年滞在可
(カナダ国内で2年更新可)
・就労は禁止
参照:IRCC(カナダ移民局):Super Visa,PGP

オーストラリアの場合

オーストラリアでは、市民権および永住権保持者が各自の条件に合わせて選択できる、複数のビザを用意しています。オーストラリアに日本に住む親を呼び寄せる場合に利用できるビザは、主に次の4つのカテゴリから選択できます。

  • 非拠出型(サブクラス103・804)
    • 資金負担が少ないが、審査期間が非常に長い
    • 永住権が得られる
  • 寄付型/貢献型(サブクラス143・864)
    • 高額な申請費用が必要だが、審査期間は比較的短い
    • 永住権が得られる
  • 一時滞在型(サブクラス173・884)
    • 2年の一時滞在が可能
    • 寄付/貢献型のビザに切り替えが可能
  • 観光型(サブクラス870)
    • 3~5年一時滞在できるが永住権は得られない
    • 費用は比較的高い

永住権が得られるビザは「非拠出型」と「寄付型/貢献型」に分けられます。非拠出型は、申請料金を抑えられる一方、審査期間が長いことがネックです。一方、寄付型/貢献型は、申請料金が高いものの、審査期間を短縮できます。

一時滞在型は更新により、寄付型/貢献型のビザへの切り替えが可能です。観光型は3年と5年があり、それぞれの事情に合わせて選択できます。

ビザの種類分類料金条件申請場所審査期間
103:
親ビザ
非拠出型AUD
7,190
親が豪州外に居住国外
(日本)
約31年
804:
高齢親ビザ
非拠出型AUD
7,190
親が豪州内に居住
男性67歳以上
女性65歳以上
豪州約31年
143:
貢献型親ビザ
拠出/貢献型AUD
48,495
親が豪州外に居住国外
(日本)
約14年
864:
高齢親扶養ビザ
拠出/貢献型AUD
48,495
親が豪州内に居住
男性67歳以上
女性65歳以上
豪州約14年
173:
貢献型
親一時ビザ
一時滞在型
(2年)
AUD
32,430
親が豪州外に居住国外
(日本)
約12年
884:
扶養型
高齢親一時ビザ
一時滞在型
(2年)
AUD
34,025
親が豪州内に居住
男性67歳以上
女性65歳以上
豪州約12年
870:
スポンサー付き
親一時ビザ
観光型
(最長3~5年)
最長3年間 AUD 5,895
最長5年間 AUD 11,785
親が豪州外に居住国外
(日本)
参照:オーストラリア内務省:ビザリスト/家族ビザとパートナービザ

オーストラリアのビザ申請では、共通して以下のような書類の提出が求められます。

  • 経済保証書(Assurance of Support)
    • スポンサー(子)が親の生活費等を保証する旨の書類。保証金の預託も必要
  • 家族構成テスト(Balance of Family Test)
    • 親の子どもの半数以上がオーストラリアに永住していることの証明が必要
  • 親の健康診断書・警察証明書(無犯罪証明書)
  • その他:パスポート、親子関係証明書(出生証明書など)、収入証明書など

申請要件として「Balance of Family Test」があり、親の子どもの半数以上がオーストラリアに居住している必要があります。「Assurance of Support(AoS)」と呼ばれる経済保証書の提出も必須で、通常AUD10,000の保証金を10年間預金することが求められます。健康診断書と無犯罪を証明する警察証明書の提出も必要です。

ドイツの場合

ドイツでは、親を呼び寄せる際に「家族統合(Familiennachzug)ビザ」を利用できます。ただし、親が本国で適切な介護を受けられない事情や、親を扶養する経済力が求められ、非常に審査が厳格です。単に家族と一緒に住みたいという理由だけでは認められません。

ドイツの永住権を持つ子どもが申請できますが、医療保険や住居、介護支援体制などの条件をすべて満たすことが必要です。ドイツの制度は他国と比較して裁量的要素が強く、ケースバイケースの柔軟な判断が行われる傾向がみられます。

該当ビザ・制度名Familiennachzug(家族統合ビザ)
年間受付数制限なし
申請資格・18歳以上
・ドイツの永住権・市民権保持者
・労働許可証/EUブルーカード(高度人材ビザ)保持者
申請条件・自国で親の介護が困難な事情を証明できること
・扶養できる経済力・住居・保険の証明ができること
必要書類・ビザ申請書
・申請者の在留許可証
・資金証明書(納税証明書、給与明細書、銀行口座の残高証明書など)
・親子関係証明書(出生証明書など)
・居住証明書(賃貸契約書など)
・ドイツの医療保険加入証明書
・警察証明書
・健康診断記録
・ビザ手数料支払い証明書
・パスポート
審査期間の目安・約3~6ヶ月
注意点・補足・高齢の親の呼び寄せはハードルが高い
・公的医療保険への加入が必須
・自治体によって運用が異なる
参照:ドイツ外務省 ビザ申請に関する一般情報

イギリスの場合

イギリスでは「Adult Dependent Relative visa」が該当しますが、要件が非常に厳格です。永住権保持者や英国市民であっても、親が本国で介護を受けられないことを詳細に証明しなければなりません。単に高齢であるだけでは不十分で、却下率が高めです。

永住を前提とするビザのため、短期的な滞在目的には適していません。日本から申請した場合、審査期間は通常3ヶ月程ですが、複雑なケースでは18ヶ月以上かかることもあります。

該当ビザ・制度名 Adult Dependent Relative Visa (成人被扶養者ビザ)
年間受付数制限なし(ただし審査は極めて厳格で、発給件数は非常に少ない)
申請資格・18歳以上であること
・英国市民権または永住権保有者
・英国に定住していること
申請条件・親が日常生活で介護を必要とし、母国で適切なケアが受けられないこと
・申請者が十分な収入・住居を有すること
・申請者の年収が£18,600以上(目安)であること
・経済力・住居を備えていること
必要書類・ビザ申請書
・申請者の英国市民権または永住権証明書類
・親子関係証明書(出生証明書など)
・収入証明書
・住居証明書
・医師の診断書
・介護の必要性を証明する文書
・署名入り誓約書(5年間の扶養責任)
・親の警察証明書(不要な場合あり)
・パスポート
審査期間の目安・約3~6ヶ月
注意点・補足・永住権(Indefinite Leave to Remain)付与の可能性あり
・審査が厳しく拒否率が高い
参考:GOV.UK Family visas

韓国の場合

韓国では、外国人が親を呼び寄せる制度は整っておらず、長期滞在ビザ(F-1)などで滞在資格を申請するケースが一般的です。ただし、高齢者の長期滞在を目的とした場合は、申請者の扶養能力や居住証明などの審査があり、ケースバイケースの対応になるでしょう。

韓国は地理的に日本に近く文化的にも似ている点が多いため、韓国語ができなくても、ある程度の意思疎通は可能です。医療制度は国民健康保険が充実しており、外国人登録をした長期滞在者も加入できます。ただし、永住権(F-5ビザ)の取得には厳格な要件があるため、長期的な定住を希望する場合は慎重な計画が必要です。

該当ビザ・制度名F-1(訪問ビザ)
F-1-3(訪問同居)/F-1-5(結婚移民者の親の訪問同居)
年間受付数制限なし(事実上、移民ではなく一時滞在)
申請資格・韓国の滞在ビザ(A-1,A-2,A-3など)保有者 ※F-1-5
・韓国人と結婚した外国人(結婚移民者)※F-1-5
申請条件・申請者が安定した収入・住居を有すること
・親子関係を証明できること
・滞在理由を説明できること
必要書類・ビザ発給申請書
・申請者の在留資格証明書(外国人登録証など)
・パスポート
・親子関係証明書(家族関係証明書)
・申請者の在留証明書
・収入・居住証明書
・ビザ申請料支払証明書
・親の健康診断書(不要な場合あり)
・同居または長期滞在の必要性を証明する文書(推奨)
審査期間の目安・約1~2ヶ月
注意点・補足・親戚訪問、家族との長期滞在を目的とする
・有効期限は1年(更新可能)
・外国人登録が必要(90日以上滞在時)
・親の呼び寄せ制度(ビザ)が未整備のため、ケースバイケースで審査あり
参照:Hi KOREA 出入国/滞在案内

海外に親を呼び寄せるうえで考慮すべきこと

親を海外に呼び寄せた後の生活は、言語や医療、文化の違いから多くの課題を伴います。現地で安心して暮らせるようにするためには、受け入れ環境の整備と継続的なサポート体制の構築が必要です。

現地の医療体制と言語の壁

高齢の親が現地で日常的に医療機関を利用できるように準備することは、非常に重要です。特に保険未加入の場合は医療費が高額になる国も多いため、ビザの取得前に民間保険や公的制度への加入可否を確認しておく必要があります。

現地語に不慣れな親が、医師とのやり取りに苦労するケースも少なくありません。日本語で対応できる医師や、医療通訳サービス対応の医療機関をチェックしておきましょう。親の既往症に対応できる専門医、継続して処方薬を入手できる医療機関、緊急時の対応体制も確認しておくと安心です。親の病歴や服薬歴の英訳も準備しておくと、診療時に役立ちます。

日本とは診療方針や治療法が異なるケースが多いため、事前に理解して親に説明しておくことも重要です。通院時には、できるだけ家族が付き添える体制も整えておきましょう。

介護サービスの状況と対象範囲

現地で親が受けられる介護サービスの内容や条件は、日本とは大きく異なります。海外で長期的に親をケアしていくためには、現地の介護サービス制度を理解し、適切に利用することが非常に重要です。

たとえば、カナダでは各州が独自の高齢者ケアプログラムを運営しており、在宅介護サービスから施設介護まで幅広い選択肢があります。ただし、新規移民の場合は、一定期間の居住実績が必要な場合が多く、その間は私費でサービスを利用しなければなりません。

また、訪問介護やデイサービスの種類、頻度、自己負担額にも大きな差があります。一部の国では、高齢者を対象とした民間介護サービスが充実していますが、高額になる場合があるため、予算とのバランスを慎重に見極めることが重要です。介護が必要な場合には、入居型施設への早期登録も視野に入れて検討する必要があります。

親の文化と生活習慣への適応

長年慣れ親しんだ日本の生活環境から全く異なる文化圏への移住は、親にとって大きなストレス要因となります。食事の内容や調理方法、入浴習慣、就寝時間、テレビ番組、近所付き合いの方法など、日常生活のあらゆる違いが、孤独感や生活意欲の低下につながることも少なくありません

日本語で話せる知人や近隣住民の存在、日本食が手に入る環境、地域の日本人コミュニティへの参加など、小さな「つながり」が精神的な安定につながります。可能な限り、日本のテレビや新聞、趣味活動など、親の生活リズムを維持できるように工夫しましょう。文化的な違いを理解し、丁寧にサポートする姿勢が大切です。

親の呼び寄せでよくあるトラブルと回避策

親を海外の居住地に呼び寄せるにあたって、様々なトラブルが生じる可能性もあります。よく見られるトラブルを知り、万が一のための回避策も把握しておきましょう。

ビザ申請の却下

海外在住者が最も直面しやすいトラブルの一つが、親のビザ申請が却下されることです。却下の理由としては、以下のようなケースが挙げられます。

  • 書類の不備や矛盾
  • 扶養能力の証明が不十分(経済力不足)
  • 親の健康状態に関する懸念(健康状態の情報不足)
  • 居住環境に関する記載が曖昧
  • 呼び寄せの必要性が不十分

特にイギリスやオーストラリアなどは審査が非常に厳しく、提出書類に整合性がないとすぐに拒否される傾向があります。一時ビザ(例:カナダのSuper Visaや豪州のSubclass 870)では滞在期限があるため、更新申請を見越した準備も必要です。

回避策
  • 申請書類は公式ガイドラインに沿って詳細に用意する
  • 翻訳書類は公的に認証されたものを使用する
  • 申請時点での収入だけでなく将来的な安定性を示す
    • 雇用契約書、昇進の可能性、配偶者の収入、資産状況などを総合的に提示
  • 事前に移民専門の弁護士やビザコンサルタントに相談する

医療費や保険加入に関する問題

親を呼び寄せた後に直面する深刻な問題が、予想以上に高額な医療費や保険加入の難しさです。多くの国では新規移民は一定期間公的健康保険の対象外となり、民間保険に頼らざるを得ません。

しかし、高齢者の民間健康保険は保険料が極めて高額で、既往症がある場合は加入を拒否されることもあります。一方で、高齢だと持病の治療や突発的な入院が必要になるケースも多く、医療費が高額になりがちです。無保険では負担が非常に大きくなるため、利用可能な保険と補償範囲などを事前にしっかり調査しておく必要があります。

回避策
  • 居住国の医療費水準、親の健康状態に応じて想定される医療費を調べておく
  • 現地の公的保険への加入資格を事前に確認しておく
  • 高齢者でも加入できる民間医療保険と補償範囲の比較検討する
  • 持病がある場合、通院・入院先の医療体制を渡航前に確認しておく
  • 万が一に備えて、日本への一時帰国も含めた医療計画を検討しておく

親の心理的なストレスや孤立感

言葉や文化の違い、生活環境の変化により、呼び寄せた親が孤独や不安を抱えやすいことも大きな問題です。特に、日中に在宅で一人になる時間が長くなると、うつ傾向や認知機能の低下にもつながりかねません。日本語を話せる医師やヘルパーが少ない地域では、医療アクセスへの不安も重なります。

親の渡航前から居住国の日本人コミュニティとの接点を作ったり、日本の家族や友人との定期的な連絡手段を整備したりして準備しましょう。海外在住者自身も、親の精神的ケアに十分な時間を割けるよう、仕事と介護のバランスを考慮した生活設計を行うことが必要です。

回避策
  • 近隣の日本人コミュニティや高齢者向けサークルへの参加を支援する
  • オンラインで日本の友人や親族とつながれる環境を整備する
  • 現地語で簡単に意思を表示できるカードや翻訳アプリを活用する
  • 日本語対応の医療・介護サービスを確保する
  • 親の趣味や関心事を継続できる機会を設ける
  • 日本の文化的行事が行える環境を用意する
  • 親が慣れるまでは在宅時間を調整して一緒に過ごす

現地の制度を理解して着実に準備を進めよう

海外在住の日本人が親を呼び寄せて介護するには、ビザ制度や健康保険、住宅環境、現地の介護事情など、幅広い制度理解と現実的な準備が求められます。無事に呼び寄せられた後も、親の生活・健康・心理面の継続的な支援が必要です。

親の呼び寄せ介護は一時的な対応ではなく、長期的な視点で「どう暮らしてもらうか」を考えなければなりません。海外にいながらも実現可能な介護体制を整えるためには、制度と実務の両面を理解し、できる準備から着実に進めていきましょう。

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