海外在住者は一時帰国時に国民健康保険に入れる?保険料はいくら?

日本国内に住民票を置いていない海外在住者が、一時帰国中に病院を受診した場合、医療費を全額支払う必要があります。しかし、治療内容によっては大きな負担になるため、滞在期間中だけ住民票を戻し、国民健康保険に加入したい人も多いのではないでしょうか。
この記事では「一時帰国時に国民健康保険に入れるのか」「加入した場合は保険料がいくらになるのか」「国保以外でも医療費をカバーできるのか」など、海外在住者が気になる点をまとめました。一時帰国前に正しい情報を知り、万が一のときに備えましょう。
- 1年未満の一時帰国の場合、国民健康保険(国保)への加入は原則不可
- 一時帰国が1年以上になる場合には、帰国から14日以内に加入手続きが必要
- 海外滞在により前年無収入の場合、保険料の軽減対象となる可能性が高い
- 前年度無収入・現在無職の単身世帯だと、保険料は年間2万円前後が目安
- 会社員の家族の扶養に入る場合、国保の加入・保険料の個別負担は原則不要
1年未満の一時帰国では国保の加入は原則不可

原則として、日本に帰国して1年以内に再出国する場合は、国民健康保険に加入できません。住民票を日本国内に移した場合でも、実際の生活の拠点が海外にあると判断されると、国保への加入が認められないことがあります。
短期滞在の事実を伝えずに加入し、1年以内に海外へ転出した場合、転入時にさかのぼって資格を取り消されることがあるので注意が必要です。もし、一時帰国中に保険証を使って治療を受けていると、保険給付費(医療費の7~8割)の返金義務が生じる可能性があります。
自治体によっては、個別の事情を考慮し、1年未満の滞在でも加入が認められるケースもありますが、あくまで例外的な扱いです。原則として、一時帰国中の短期的な滞在を目的とした加入はできないと理解しておきましょう。
住民票を残しているなら国保の利用が可能

海外在住でも住民票を日本に残している場合、一時帰国中でも国民健康保険(国保)の利用が可能です。国外転出届の提出の有無が、国保に加入できるかどうかの基準となります。
国外転出届が未提出なら国保の資格を維持
日本と海外を行き来する場合や、数か月おきに帰国して日本の医療機関を受診する場合は、住民票を日本に残し、国保の資格を維持しておくのも選択肢の一つです。
ただし、日本の居住者扱いとなるため、年金や住民税などの支払い義務が生じます。日本で収入があるなら、所得税などの申告も必要です。お子さんがいる場合、年齢によっては就学義務が生じることも考慮しなければなりません。
日本で未収入の場合の保険料は軽減対象
海外滞在により日本国内での収入がない場合、国民健康保険料の軽減措置を受けられる可能性があります。厚生労働省の軽減制度では、前年の総所得金額等が一定基準以下の世帯に対して、最大7割までの保険料が減額される仕組みです。
前年の所得が0円、かつ帰国後も無職であれば、高い軽減率が適用される可能性があります。軽減の申請は、世帯主が行うのが原則です。収入証明や無職の申告が必要になる自治体もあるのでよく確認しておきましょう。
参考:厚生労働省「国民健康保険料・保険税の軽減について」
一時帰国の期間が1年以上なら加入手続きが必要

一時帰国が1年以上になる場合、国民健康保険への加入手続きが必要です。帰国後の申請期限や保険料の計算方法について理解しておきましょう。
帰国から14日以内の手続きが原則
1年以上滞在予定である場合は、帰国から14日以内に転入届を提出し、国民健康保険への加入申請を行いましょう。申請時に必要な書類は以下のとおりです。
- 国外から転入される人全員のパスポート
- 戸籍謄本(本籍地と同じ市区町村に転入する場合は不要)
- 戸籍の附票(本籍地と同じ市区町村に転入する場合は不要)
- 世帯主のマイナンバーがわかるもの(親族の扶養に入る場合)
- 外国籍の家族がいる場合は、世帯主との続柄を証明する書類(結婚証明書、出生証明書など)
とくに問題がなく本人確認ができた場合は、すぐに手続きが完了します。ただし、2024年12月以降、紙の健康保険証は廃止されたため「資格確認書」か、マイナ保険証が必要です。
加入申請を行う前に医療機関を受診した場合は全額負担となりますが、加入手続き後に保険診療分が払い戻されます。
保険料は前年の収入・加入人数によって決定
国民健康保険料は、主に「前年の収入」「加入者数」「世帯ごとの負担金」を基に計算されます。海外在住者の場合、前年に日本での収入がなければ収入に基づく料金は0円となり、主に加入者数と世帯ごとの負担金によって保険料が決まるのが一般的です。
仮に家族で帰国した場合、加入者が増えるほど人数分の基本料金が加算されるため、単身での帰国よりも保険料の負担が大きくなります。前年無収入で現在無職なら、軽減措置により7割減額が適用される可能性が高く、実際の負担額は軽減されるでしょう。
たとえば、令和7年度の場合、前年度無収入・現在無職の単身世帯(40歳以下)が東京23区で国保に加入すると、年間保険料は約19,200円です。保険料の支払い回数は10期分割が一般的なので、1回あたり約1,920円(40歳以上は約2,400円)の納付見込みとなります。
参考:
東京都保健医療局「保険料(税)額について」
サンネット株式会社「国民健康保険料 試算システム(令和7年度版)」
国民健康保険は、加入した月からその年度末(通常は3月末)までの期間分を月割りで計算して納付するのが原則です。月途中の加入でも1か月分としてカウントします。たとえば、8月に加入した場合、8〜3月の8か月分が請求対象です。
保険料は「年間保険料÷12×加入月数」で計算されますが、請求は10か月分に分けて送られるため、1か月分×1.2が大まかな目安になります。帰国時期によって支払額に差が出るため、事前に市区町村窓口で確認しましょう。
会社員の扶養に入れば国保の加入・保険料は不要に
海外在住から帰国した方が家族の扶養に入る場合、一定の条件を満たせば保険料の個別負担は不要となります。会社員や公務員の健康保険では、年収130万円未満(かつ被保険者の収入の1/2未満)の家族を扶養として加入させることができ、扶養者の保険料は変わりません。
ただし、国民健康保険には扶養の概念がないため、自営業の親と同居する場合などは、世帯人数が増えた分だけ保険料も加算されます。扶養の可否によって負担額に大きな差が出るため、事前に確認することが重要です。
参考:全国健康保険協会「被扶養者とは」
一時帰国時は海外旅行保険を利用しよう

短期間の一時帰国中、万が一に備えたい場合は、国保の代わりとして、日本もしくは居住国の海外旅行保険を利用するとよいでしょう。
居住国の海外旅行保険
帰国前に備えておきたい場合には、居住国の海外旅行保険に加入するのがおすすめです。各国にはさまざまな保険がありますが、とくに以下の4つの点について確認した上で加入を検討しましょう。
加入資格 | ・本人はもちろん、同伴家族の加入条件も要確認 ・日本と居住国の二重国籍者は、加入できない場合もあり |
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補償の範囲 | ・治療費・入院手術費・救急車代など、補償範囲の確認は必須 |
補償の上限額 | ・補償される病気・ケガでも、限度額を超えた部分は自費負担 ・とくにアジア圏の国の保険は、補償限度額が低いものが多い |
アシスタンスサービス | ・医療費支払い保証付きの場合、キャッシュレス診療に対応(例外あり) ・必要な場合は、外国にいる家族への連絡や医療搬送などの手配も対応 |
居住国で保険に加入する場合には、現地語で契約内容を理解しなければなりません。不安がある場合は、日本語のサポートに対応していたり、日本国内に窓口があったりする保険を選んでおくと安心です。
居住国に戻った後にトラブルが起きないよう、保険請求時に必要な書類、手続き方法も確認しておきましょう。
居住国発行クレジットカード付帯の海外旅行保険
居住国で発行されたクレジットカードに、海外旅行保険を付帯できる場合もあります。すでに自分名義のクレジットカードを保有しているなら、海外旅行保険サービスの有無を確認してみましょう。
居住国の国籍を持つ家族と一緒に帰国する場合は、その家族名義のクレジットカードに保険を付帯させると、一緒に補償を受けられることもあります。
なお、民間保険会社のサービスに加入する場合と同様、補償範囲・上限額などの確認は必須です。民間保険会社の補償内容と条件を比較し、どちらを利用するか選択しましょう。
日本の海外旅行保険
日本の海外旅行保険でも、一時帰国中の医療費を補償してもらえるものがあります。大きく分けると、以下の3通りです。
訪日外国人向け海外保険 ※日本人も契約可 | ・日本に入国後に契約 ・入国日から出国日まで30~31日間補償 |
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逆海外旅行保険 | ・入国前に日本国内にいる本人以外の家族などが申請 ・日本国籍所有者:入国日から出国日まで最大6か月間補償 ・外国籍所有者:入国日から出国日まで最大3か月間補償 |
海外旅行保険の 一時帰国補償特約 | ・海外への出国前に日本国内で契約 ・非居住者:入国日の翌日から最大90日間補償 ・居住者:入国日の翌日から最大30日間補償 |
短期間の一時帰国時に備えたい場合は、訪日外国人向け海外保険(インバウンド保険)、長期の帰国時には逆海外旅行保険が向いています。3か月以上の海外滞在期間に一時帰国の予定があるなら、一時帰国補償特約が付帯する海外旅行保険への加入するのがおすすめです。
いずれも日本での医療費をカバーしますが、申込条件や補償範囲、加入手続きに違いがあります。帰国目的や滞在期間に応じて慎重に選択しましょう。3種類の保険の違いは、以下の記事で詳しく解説しているので、あわせて参考にしてください。

まとめ
原則として、一時帰国中は国民健康保険に加入することはできません。1年以上滞在する場合、もしくは個人の事情により、転入届を出して加入する場合は居住者扱いになり、各種税金などの支払い義務などが生じます。
数日~数か月の滞在期間中だけ備えたい場合は、国保の代わりとして、日本もしくは居住国の海外旅行保険に加入しておきましょう。