海外在住者が今こそ知るべき「親の認知症と資産管理」
海外在住中、日本にいる親の様子が気になりながらも、なかなか帰国できず不安を抱えている方は多くいるのではないでしょうか。特に認知症は、気づいた時点ですでに対応が難しくなるケースも少なくありません。日本の制度を知らないままでは、親の介護やお金の管理で思わぬ悩みに直面することがあります。
いざというときに慌てないためには、海外にいて情報が届きにくい中でも、事前に準備をしておくことが非常に重要です。そこで本記事では、海外在住の日本人が知っておきたい「親の認知症と資産管理」について、わかりやすく解説します。
※本記事は、海外在住者の老後・介護をサポートする一般社団法人Hearth(ハース)代表・よこばたけあやみ氏が、日刊サンで連載中のコラムに基づき、再構成したものです。
日本では高齢化の進行とともに、認知症の人は今後も増え続けると見込まれています。厚生労働省の推計によると、2040年には認知症患者が584.2万人、軽度認知障害(MCI)患者数が612.8万人になるといわれ、合わせると約1,200万人という状況です。
【認知症及びMCIの高齢者数と有病率の将来推計】

これは特別な家庭の問題ではなく、誰の親にも起こり得る身近な現実として認識する必要があります。海外在住者の場合、日本に住む親の変化に気づくのが遅れやすく、対応が後手に回りやすいため、早めに備えることが重要です。
参照:厚生労働省「令和7年版高齢社会白書」

日本では、親が認知症と診断されると、たとえ家族であっても、自由に親の資産や契約に関われない場面が増えていきます。日本の制度では、本人確認や意思確認が非常に重視されているためです。
銀行や不動産会社、保険会社などは、原則として判断能力の低下が認められる場合、本人の意思が確認できない手続きを受け付けません。結果的に「介護費用を支払いたくても預金を引き出せない」「実家を処分したくても話が進まない」といった状況が起こります。
以下は代表的な例です(すべて本人名義のもの)
- 銀行の預貯金引き出し
- NISA・株式の売買
- 不動産の売買や契約
- 保険加入・介護サービスの契約
- 遺言書の作成(公正証書)
- 親族の遺産分割・相続放棄
特に、認知症が進行していると、判断能力が喪失していると見なされ「法定後見制度(※)」を利用した手続きが必要になります。不動産の売却や施設入居の契約でも同様です。
マイナンバーカードや健康保険証を持たず、本人確認が難しい海外在住者は、さらに手続きが難しくなります。海外在住という立場が、日本の親の介護において「ハンデ」になり得ることを理解しておきましょう。
※法定後見制度とは
ご本人がひとりで決めることが心配になったとき、家庭裁判所によって、成年後見人等が選ばれる制度です。ご本人の不安に応じて「補助」「保佐」「後見」の3つの種類(類型)が用意されています。(厚生労働省「法定後見制度とは」)

認知症への対応で最も大きな差が出るのは「判断力があるうちに準備できたかどうか」です。親が元気なうちは、将来の話を切り出しにくいと感じるかもしれません。しかし、話し合いができる時期は限られています。
判断能力がある段階であれば、財産管理や介護について本人の意思を確認し、書面に残すことが可能です。認知症が深刻化する前に次のような対応をしておくと、親の財産や意思を守りやすくなります。
- 任意後見契約や遺言書の公正証書化
- 日常の金銭管理や光熱費の支払い手続きを専門家に依頼
- 信頼できる身元保証人・身元引受人を決めておく
海外在住者の場合、信頼できる第三者や専門家を含めた体制づくりも重要になります。準備は「万が一のため」ではなく「安心して年を重ねるための手段」と考えると、前向きに進めやすくなるでしょう。
海外在住で親の介護や認知症に向き合うと「自分だけ何もできていないのでは」と悩みを抱えてしまう方もいます。遠距離だからこそ「あれ?何か違う」と感じたら先延ばしにせず、すぐに「事前準備」を進めることが重要です。
日本には、家族に代わって支援する制度や専門家が存在します。それを知らないまま時間が過ぎてしまうと、後から取り戻せない状況になることは少なくありません。
事前に親御さんと話し合い、法的・実務的な準備を進めておくことで「予期せぬ壁」に直面するリスクを軽減できます。一人で抱え込まず、できることから始めていきましょう。
※この記事のオリジナル版は、日刊サン連載『日本の介護最新情報』に掲載されました。
※執筆:海外暮らしINFO/監修:一般社団法人Hearth(ハース)代表 よこばたけあやみ氏






