海外在住者が知っておきたい高齢の親の住まい事情
海外在住の日本人にとって、日本で暮らす親の生活は見えにくいものです。特に親が高齢になると、住まいの問題や認知症、介護などの悩みが突然現実になります。日本では高齢者の一人暮らしが増え、賃貸住宅の入居や住み替えが難しくなるのが実情です。
この記事では、日本の高齢者の住まい事情と実際のケースをもとに、海外在住者が知っておきたいポイントについて詳しく解説します。
- 日本で増える高齢者の一人暮らしと海外在住者の不安
- 日本では65歳以上の人口増加とともに、一人暮らしの高齢者も増えている
- 転倒や急病、社会的孤立など、高齢者の単身生活はリスクが大きい
- 海外在住の家族は、親の健康状態や認知症の初期症状に気づきにくい
- 高齢者が賃貸住宅を借りにくい日本の住まい事情
- 高齢者の単身入居に慎重なオーナーが多く、賃貸住宅探しが難しい
- 健康リスクや孤独死への懸念などを理由に入居を断られるケースがある
- 法的には高齢を理由とした契約解除はできないが、現実には起こっている
- 高齢者向け住宅の選択肢と早めの準備の重要性
- サービス付き高齢者向け住宅では、安否確認や生活相談が受けられる
- 日本の高齢者向け住まいは多種多様で、入居条件も異なる
- 将来に備え、事前に親と住まいの選択肢を話し合うことが大切
※本記事は、海外在住者の老後・介護をサポートする一般社団法人Hearth(ハース)代表・よこばたけあやみ氏が、日刊サンで連載中のコラムに基づき、再構成したものです。
日本では高齢者の一人暮らしが増加
日本は、世界でもトップクラスの高齢化社会に入り、65歳以上の人口が急増しています。その影響で、一人暮らしの高齢者も年々増加しているのが現状です。厚生労働省の調査によると、高齢者世帯の半数以上が一人暮らしであることが明らかになっています。

高齢者が単身で生活するには、さまざまな課題があります。たとえば、身体機能の低下による生活の不便さや、転倒・急病などの緊急時への対応、社会との関わりが減ることによる孤立などです。こうした問題は、日本でも大きな社会課題となっています。
海外在住の家族(子ども)にとっては、さらに不安が大きくなります。日常の様子が見えないため、親の健康状態や生活環境の変化に気づきにくいからです。認知症の初期症状なども、離れて暮らしていると見逃してしまうことがあるでしょう。
そのため、日本に住む親の生活環境や住まいの状況を早めに把握しておくことが、将来の介護や生活支援を考えるうえで重要になります。
参考:厚生労働省「2024(令和6)年 国民生活基礎調査の概況」
高齢者の賃貸入居が難しい理由
日本では、60歳以上の人が新たに賃貸住宅を借りるのが難しくなってきています。実際、多くのオーナー(貸主)が高齢者の入居に慎重になっているのが実情です。

その理由のひとつは、健康面のリスクです。高齢になると病気や転倒事故などの可能性が高くなるため、万が一のトラブルを懸念するオーナーは多くいます。
孤独死などの問題を懸念し、入居が断られるケースもあるでしょう。長く住んでいた賃貸住宅でも、契約更新のタイミングで住み替えを検討しなければならないこともあります。
法律上は「高齢であること」だけを理由に契約解除を求めることはできません。契約を解除するには正当な理由が必要であり、オーナーから更新を拒否されても、借主が拒否すれば契約を継続(法定更新)はできます。
しかし実際には、オーナーとのトラブルを避けるために、住み替えを選ぶ人もいるのが実情です。海外在住の家族(子ども)にとっては、日本の住まいの事情を理解しておくことが、親の将来を考えるうえで大切なポイントになります。
娘の家の近くへ住み替えた事例

実際に住み替えを経験したケースを見てみましょう。
Aさん(当時78歳)は、長年暮らした地方の町で一人暮らしをしていました。しかし、子どもたちは東京で生活しており、年齢を重ねるにつれて夜間の体調不良や緊急時への不安を感じるようになります。
そこで、娘夫婦の近くで暮らすことを決め、東京で賃貸住宅を探すことになりました。
しかし、高齢者の単身入居は簡単ではありません。多くの物件に問い合わせても断られ、数多くの候補を検討することになりました。
最終的に入居できたのはごく限られた物件のみ。しかも、入居条件には「家族が近くに住んでいること」「緊急時にすぐ駆けつけられること」などが含まれていました。
この事例からも、日本では高齢者が新たに住まいを見つけることが決して簡単ではないことがわかるでしょう。海外在住の家族が関わる場合は、さらに情報収集やサポートが重要になります。
サービス付き高齢者向け住宅も選択肢に
高齢者の住まいの選択肢として注目されているのが「サービス付き高齢者向け住宅」です。一般的に「サ高住」や「サ付き」と呼ばれています。

「サ高住」とはバリアフリー設計の賃貸住宅で、安否確認や生活相談サービスを受けながら生活できる高齢者向けの住まいです。原則60歳以上の高齢者、または要支援・要介護認定者を入居対象としています。
多くの物件では、各居室にキッチンや浴室、トイレなどが備えられており、自由度の高い生活ができることが魅力です。必要に応じて食事の提供、介護サービスを利用できる場合もあります。
本来、食事・介護の提供、家事、健康管理のいずれかを行う住宅は、有料老人ホームに該当します。しかし、実際にはオプションでこれらのサービスを提供しているサ高住が多く、有料老人ホームとの線引きが曖昧なのが実態です。
- 定義(厚労省):高齢者単身・夫婦世帯が居住できる賃貸等の住まい
- 対象:原則60歳以上の高齢者、または要支援・要介護認定者
- 設備条件:
- 床面積(原則25㎡以上)
- 便所・洗面設備等の設置
- バリアフリー構造
- 必須サービス:安否確認、生活相談
- 契約方式:賃貸借方式
- 長期入院等を理由に事業者から一方的に解約できないこと
- 前払家賃等の返還ルール及び保全措置が講じられていること
- 敷金・家賃・サービス対価以外の金銭を徴収しないこと
日本には、高齢者向け住宅や施設が数多くありますが、種類や条件は非常に多様です。海外在住で日本の情報を集めるのが難しい場合は、専門家に相談しながら検討することが安心につながるでしょう。
参考:
厚生労働省「サービス付き高齢者向け住宅について」
国土交通省「サービス付き高齢者向け住宅について」「サービス付き高齢者向け住宅」
親の住まい問題は早めの準備が重要
高齢の親の住まいについて考えることは、決して簡単ではありません。しかし、親の健康状態や生活環境は年齢とともに変化します。認知症の兆候や身体機能の低下など、少しずつ暮らしに影響が出てくることもあるでしょう。
海外在住の場合、急なトラブルが起きてから対応するのは非常に大変です。日本に帰国できない状況で、住まい探しや介護の手続きを進めることになるかもしれません。
だからこそ、元気なうちから住み替えや生活環境について話し合い、将来の選択肢を整理しておくことが大切です。親の希望を聞きながら、家族としてどのようなサポートができるのかを考えておくことが安心につながります。
海外からの親の介護は専門家に相談を
海外在住で日本の親の介護や住まいの問題に直面すると「何から始めればいいのか分からない」と悩む方が少なくありません。
日本の介護制度や高齢者住宅の情報は複雑で、遠くから情報を集めるには限界があるのが現実です。さらに、認知症の可能性や緊急時の対応など、家族だけで抱えるには負担が大きい問題もあります。
そのようなときは、専門家に相談することもひとつの方法です。海外在住者向けの介護相談を行っている「サロンドハース」では、日本にいる親の住まい探しや介護に関する相談を受け付けています。
同じ悩みを抱える海外在住者のサポート経験がある専門家に相談することで、状況に合った選択肢を整理できるでしょう。遠く離れていても、親の暮らしを支える方法はあります。ひとりで抱え込まず、必要なサポートを活用していくことが重要です。
※この記事のオリジナル版は、日刊サン連載『日本の介護最新情報 Vol.54』に掲載されました。
※執筆:海外暮らしINFO/監修:一般社団法人Hearth(ハース)代表 よこばたけあやみ氏






