行政関係

海外在住者は国民年金に任意加入すべき?

海外転出届をして非居住者となった場合、国民年金の支払い義務はなくなりますが、任意加入すれば継続ができます。とはいえ、任意加入が必要かどうか迷う人も多いものです。

そこで今回は、任意加入すべきか迷っている人のために、海外居住者が知っておきたい国民年金に関する基礎知識についてお伝えします。必要な知識を得たうえで、任意加入すべきか否かを検討してみてください。

任意加入により受給できる公的年金は3種類

海外居住者が任意で国民年金に加入して保険料を支払うことで、以下の公的年金を受給できます。

老齢基礎年金受給開始年齢になったとき
保険料納付期間に応じた金額を支給
遺族基礎年金海外在住期間に死亡したとき(18歳到達年度の3月末日を経過していない子がいる場合)
780,900円+子の加算(例:第1子・第2子:224,700円)
※ 2021年8月現在
障害基礎年金海外在住期間に病気やケガで障害が残ったとき
障害の程度(障害1級・2級)に応じた金額を支給

任意加入することにより老齢基礎年金の受給金額が増え、海外在住時に万が一のことがあった場合にも、遺族・障害基礎年金を受給できます。任意で加入しなかった場合は、受給要件を満たす場合のみ、老齢基礎年金の受け取りが可能です。受給要件については、次の「合算対象期間」も参考にしてください。

海外居住期間は、合算対象期間(カラ期間)として適用

国民年金に任意加入しなくても、日本国籍のまま海外での居住していた期間は「合算対象期間(カラ期間)」として、日本での加入期間と同等に扱われます。2017年8月から受給に必要な資格期間が短縮されたため、日本での加入期間と海外での居住期間をあわせて10年以上であれば受給申請が可能です。

たとえば、20歳から25歳までの5年間、日本で厚生年金(もしくは国民年金)に加入し、26歳から60歳まで海外に居住したとしましょう。この場合、日本での加入期間だけでは受給に必要な10年は満たせませんが、26歳からの35年間が合算対象期間となるため、受給資格を得られるというわけです。

ただし年金の受給額は、日本で加入していた期間を対象に計算されます。あくまで年金の受給資格が得られるというだけで、合算対象期間は年金額には反映されません。上記の例の場合、日本で年金を納めていた5年を基準に算出されます。また、遺族基礎年金と障害基礎年金については、25年が必要資格期間であることもあわせて覚えておきましょう。

日本と居住国での年金加入期間も合算可能

居住している国が日本と「社会保障協定」を締結し、通算措置を認めている場合は、居住国で年金に加入していた期間も合算できます。元日本国籍の人などで受給資格を満たせない場合でも、日本と居住国での年金加入期間が10年以上であれば、日本での年金受給が可能です。

もちろん、日本での納入期間を合算することで居住国の受給要件を満たせる場合は、その国でも年金を受け取れます。ただしこの場合も、年金受給額はそれぞれの国で納入していた期間が基準です。それぞれの加入要件については例外もあるため、受給の可能性がある場合は、日本で最後に加入していた管轄の年金事務所に相談してみるとよいでしょう。

なお就労などにより居住国での年金加入が5年以上になりそうな場合には、該当国でのみ加入するのが原則です。逆に、5年以内で帰国する予定であれば、加入義務が免除されます(二重加入の防止措置)。居住予定期間や就労条件なども考慮した上で、日本での国民年金の任意加入について検討するとよいでしょう。

2019年10月時点で、日本と社会保障協定を締結している国は23か国ありますが、このうち通算措置が適用される国は以下の17か国です。

ドイツ・アメリカ・ベルギー・フランス・カナダ・オランダ・オーストラリア・チェコ・スペイン・アイルランド・ブラジル・スイス・ハンガリー・インド・ルクセンブルク・フィリピン・スロバキア

※イギリス・韓国・中国は社会保障協定締結国ですが、合算措置対象外(二重加入防止措置のみ)。イタリア・スウェーデン・フィンランドは署名済未発効。

参考:社会保障協定について

海外口座への年金振り込みに対応

海外在住者の場合、年金の受け取りは、日本国内にある銀行もしくは、居住国の銀行に振り込んでもらえます。海外口座への振り込みを希望する場合は、年金の支払いに関する書類や、受け取りを希望する海外銀行の情報、現況届(在留証明)などの書類の提出が必要です。居住国によって年金請求に必要な書類が異なるため、事前に確認しておきましょう。

参考:海外居住者の年金請求に関する提出書類について

海外口座への送金は、国ごとに送金通貨を指定しているため、希望する通貨で受け取ることはできません。EC加盟国はユーロ、それ以外の国の多くはアメリカドルで支払われています。また海外送金であるため、為替レート変動の影響を受け、毎回送金額が異なる可能性があることも覚えておくとよいでしょう。

参考:国別送金通貨一覧

まとめ:より高い受給額を希望するなら任意加入しよう

海外転出前に日本で年金を納入していた場合、海外での居住期間とあわせて10年以上であれば、受給要件を満たせます。任意加入しなかったからといって、日本で納入した年金が無駄になることはありません。また、日本に家族などの代理人がいなくても、海外の口座で受け取りが可能です。

ただし、受給額はあくまでも日本での納入期間を基準に計算されます。また事故・病気などで万が一のことがあった場合、年金に加入していなければ受給要件を満たせません。より高い受給額を希望する場合や、民間の保険などとは別に万が一に備えたい場合は、任意加入を検討するとよいでしょう。